彼は20歳年上のバツイチ。元嫁はまだ彼のことが好きらしい。
LINEの通知音がなると、携帯をチラッと見て置く彼を見て、嫌でも女の勘が働く。

元嫁からだ。

2個持ちの携帯の1個は、元嫁と子どもしかLINEに入ってないから、そっちの携帯が鳴ってすぐに置くってことは、8割元嫁。


私は23歳で、彼は43歳。

彼は私よりも20歳年上のバツイチ。10年程前に離婚した元嫁との間には2人の子どもがいる。


「もう結婚する気はないんだよね〜」

付き合う前に彼が言った言葉だ。

「じゃあ何で彼女が欲しいの?」
「1人は寂しいから。」

「遊びで付き合うのはいいの?」
「それは嫌だ。真面目に付き合ってほしい」

彼の恋愛観を聞いた時、正直苦手だと思った。

女の若い時間なんて貴重で限られてるのに、将来を見据える気もないのに付き合ってほしいだなんて失礼。
彼の今までの彼女も全員20代で、ほとんど浮気されて別れたらしい。
そりゃそうだよ、所詮あなたはキープだったんだよ。


そんな彼の事情も分かっていたから、本気で好きになったらダメだと思った。
本気で好きになったらしんどい。だから自分に都合良く上手く付き合えば大丈夫だし、私にはその自信もあった。

でも付き合っていくうちに大人な彼にいつの間にか私は夢中になっていた。


彼と同棲し始めて分かった事。
それは元嫁が彼をまだ好きだという事。

同棲している事を知っているのに頻繁にLINEや電話をしてきたり、わざわざうちの近所に引っ越してきたりという行動の数々。

まだ好きなのかな〜と言う私の疑いはある日確信に変わる。


それは元嫁から届いた今年のあけおめLINE。
「元旦那にあけおめLINEなんて普通送ってくるかな〜」
彼のLINEの通知で起きた私は、横で寝ている彼に罪悪感を抱きながら少々長い文を読む。

最後の文章に差し掛かったとき、さっきまでの眠気が吹っ飛んだ。

「変わらず大好きよ♡」

ご丁寧にハートマークまでつけてくれるのね。
感情とは裏腹にクスッと笑ってしまった。

ショック?ショックと言えばショックだけど、薄々分かってたことだから。
こんな事を言ってもあなたと彼の関係は10年前に終わってるし、もうあなたのところには戻らないのにね。
子どもを理由にしてしか会えない、連絡できない、可哀想な人。

そう思うとクスッと笑ってしまったのだ。


そんな新年早々のエピソードを、大学の時の親友に電話で話した。

「その元嫁やばいね。大丈夫?色々大変そうだけど、相談ならいつでも乗るよ。」
「ありがとう、じゃあまたね。」

そう言って電話を切る。
会話の内容からすれば何気ない、普通の会話なのかもしれないが、親友の言葉に引っかかる自分がいた。

いま可哀想なのは私?ううん、私は彼のことが好きだし、いま幸せ。
でも、将来結婚してもらえる訳でもないし、一緒に居るだけで傷つくこともたくさんある。
わたしの将来に彼はいないのに、若い時間を犠牲にしてまで一緒にいる意味があるのだろうか。
わからない、わからない。
考えれば考えるほど虚無感に襲われて涙が出そうになる。


そんな自問自答を繰り返しているうちに、「ただいま」の声にはっとする。
いつもと変わらない彼の笑顔。

「おかえり」
さっきまでの感情を殺して私もいつも通りに答える。
「好きだよ」
と後ろから抱きしめてくれる言葉に嘘はないと感じるが、

「これからもずっと一緒にいてくれる?」と私が聞くと「うん」と言ってくれるその返事は、彼のお世辞なのかどうかは見抜けないし、
結婚してくれると言う意味なのかどうかを私は聞けない。


「あ、ごめん。ちょっとコンビニに行ってくるね〜」
「わかった、いってらっしゃい」

また女の勘が働く。
きっとまた元嫁。元嫁と電話か、会って話すか。
携帯を見て出て行こうとする彼を私は止めない。

コンビニだなんて私が傷つかないようについた優しい嘘。

行かないで、と言ったら彼は行かないでくれるのだろうか。
優しい嘘なんていらない、本当の事を言ってと言えば、私は彼の言葉をきちんと受け止められるのだろうか。

子どもがいるから仕方ない、子どもたちからしたら彼はたった1人の父親なんだと言い聞かせても、全て受け止め切れるほど私はそんなに強くない。
頭では大人な考え方が出来ても、自分の気持ちまでコントロールはできない。

「まだまだ子どもだなあ。いっそ嫌いになれたら楽なのに。」
そんな事を思うだけで涙がでてくる。


好きな人と一緒にいられるのに、なんでこんな悲しいんだろう。

わたしは今、本当に幸せなんだろうか。
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