風俗嬢まりんの性愛テクニック講座
「いきなり咥えたりしないで。焦らしのない愛撫は色っぽくない」

「男の人が “もう我慢できないよ…”って呻くまで、紙一枚ぶんの薄さをはらんだ指先と舌先で遊んであげるの」

スマホの画面には、はるか縁のない文字群が、強烈なインパクトで光っている。

夏の旅行先の、薄暗い年季の入ったホテルのロビーで“風俗嬢まりんの性愛テクニック講座”なるブログを目玉を転がすように読み進めている。
誰にも見つからないように、こっそり、夫と5歳の息子が海で遊んでいるうちに。


「最近わたしたちしてないよね。セックスレスっていつからそう呼ぶのかな」

そう夫に話しかけたのは旅行に出かけるつい2週間くらい前のことで、投げかけた性の会話はあらぬ方向へ転がっていった。

私たちは仲が良い。
その代わりの副作用として色っぽい空気は蒸発している。いつものキッチンでの深夜のおしゃべりは、夜気が濃くなるにつれてどんどん剥き出しになっていく明るい性の本音を連れてくる。

そのうちに女の人は男の人の精液を口で受け止められるかという話になり、夫含め全ての関係を持った人に一度もさせたことがない私は愕然とした。
夫いわく、結構平気なんじゃない、と。
君が潔癖なのは知っているし、セックスもあんまり積極的じゃないタイプだからあえてやらなかっただけだよ、と。

「ゴックン。おいしい・・・」のような、どう考えてもその感想はおかしいとしか思えないような、男性のファンタジーを叶えるAVシーンのみに有効な技巧だと信じていた私は、多くの女性が口内射精を経験済みなのではないかという驚きと発見と焦りに目を丸くした。

自分で気が付かなかっただけで、私のセックス技術レベルはとてつもなく低いのではないか。
それはつまり、優しさと気遣いから今まで口に出さなかっただけで、夫は私に満足してないのではないか。

浮かぶ疑念。よぎる不安。

きっと、夫の元彼女達はみんな当たり前にしていたのだ。口内射精どころではなくお互いがお互いを貪るような湿度の高いセックスを、夫は結婚してからずっとしていないのではないか…もし、私を裏切っていなかったら。

今までの人生で全て受け身だった私は何をどうしていいのかわからず、こっそりと風俗嬢まりんのブログで色っぽい仕草とタッチを学び、Tarzanのセックス特集で男性器のAtoZを学び、ananのオトコのカラダ特集で気分を高めた。それも旅行中に。

ホテルの外には日差しが溢れていて潮風がヤシの葉を揺らしているのに、私だけが夏から置いてけぼりになっている気がした。
セックスレスになりかけの倦んできている夫婦関係のなかで、潔癖さと消極さを混ぜて固めた自我を脱いだら夫は呻いてくれるんだろうか。


もやもやしたまま旅先での日々は過ぎて、ひとしきり座学を終えた私と何もしらない夫と息子は夏の旅行から帰り、いつもの家のいつもの寝室で休んでいる。旅疲れた息子はベットでぐっすり眠っている。

誘い方はブログで散々勉強してある。

シャワー上がりの夫は、眠そうに布団にもぐった。
私は同じ匂いのする身体をスルっとその背中にくっつけた。わたしの鼻の先には切り揃えられた黒いえりあし。流れてくるのは、日焼けで赤くなった夫の首すじの熱。

どうしたの?いつもより近いね、と夫が笑う。
わたしから誘ったことは、今までほとんどない。
どうもしないよ、と小さい声で答える。

痛そうだね、と言ってからそっと舌を出して、
ぺろっと熱っぽい赤いうなじを舐めた。
いつもの石鹸の匂い。あつい肌。

「くすぐったい…」

「…ヒリヒリする?」

そう言って夫の首すじを唇でなぞる。
ちゃんと紙一枚の薄さを残して。

これで手順は合っているのか不安でどきどきしながら夫のパジャマの下に左手を入れて、爪先を立たせた指で乳首を優しく引っ掻いてみる。そのままお臍を指の腹でなぞる。そうやって耳の裏からゆっくり、ゆっくり、下腹部まで焦らした。

本当にどうしたの、とほとんど呟いた夫の声は掠れている。胸が上下して息が苦しそう。

ねぇ、気持ちいい?夫の全身をもったいぶって撫でている私だけがパジャマを着たまま、夫のおなかの上に乗る。今まで組み敷いてきた妻に、組み敷かれるのはどんな気持ち?ここ、まだ?って思ってる?後ろに少し下がって、下着の上からひとさし指の爪だけで硬くなっているところをそっとさする。さっきよりずっと苦しそうな夫の息が聞こえる。何度か腕を掴まれてもういいよ、早く、と言われたけれど、だめ、もっと触りたいの、と言って、ようやく口に含んだ。そこからは早かった。もう我慢できない、と言った夫は力づくだったから。

「本当に今日はどうしたの」

ぐしょぐしょに果てたあと、夫が聞いた。

「あのね、今日は私、まりんちゃんだったんだ」

「え?」

「いつもの私じゃなくて、まりんちゃんになったの。風俗嬢の。ブログで読んでどうやってするのか勉強したの。プロになりきったら何でも色っぽくやれるかなって」

鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした夫はひとしきり大笑いしたあと、何それ、イイね、と今度は泣き笑いし始めた。

それから、次はいつまりんちゃんは来てくれるの?とにやっと言った。

「俺、いつもの君も好きだけど、たまにはまりんちゃんに会いたいな」

それから半年経ったけれど、あれからたまに、
まりんちゃんは我が家の寝室にやってきている。
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