ずっとあなたのファンでした。
⚠この純猥談は浮気表現を含みます。
新大久保の韓国料理屋。憧れの人が目の前にいた。

テレビで見たとおりだ。ここに来るまでの間も、まるで予習をするみたいに電車の中でyoutubeを見ていた。

彼は特別な仕事をしていた。
そんなに有名ではないけれど、でも何度もテレビで見たことがある。

SNSのDMで応援メッセージを送ったら返事が来て、飛び上がるほど喜んだ。調子に乗って「会いたいです」と送ったら「◯日ならええけど」と返ってきて、夢と現実の間を漂うままにその日が来た。

「好きなん頼みや」と彼は言った。
テレビで聴くのと同じ声。
けれどテレビよりもクールで静かだった。

「何歳なん?」と言われて年齢を答えると「あれ?思ったよりいってんなあ」と笑った。SNSに載せる写真はだいたい盛れていて若く見える。騙したようで申し訳ない気持ちになった。

浮かれていた私はたくさん話してたくさん飲んだ。
にこにこして静かな方がいい女だってそんなの分かっていたけど、ある程度大人だから分かっていた。今夜の自分の立場を。私は今夜、「にこにして静かないい女」として呼ばれたわけじゃない。


韓国料理屋を出るとホテルまで歩いた。
ちょっと期待して手を繋いでみた。優しくて女好きな彼は拒まなかった。けれど水たまりを避ける時に自然に離れた。

あーあ。嫌だったんだろうな。手にとるように分かった。

ホテルでまたお酒を飲もうとしたら、トントン拍子に夜が始まってしまった。ほだされるような甘いキスの中で、ああ、もう終わっちゃうのか、と悲しくなった。

始まるときから終わりを考えてしまう。
一度きりの、憧れの人との、セックスが。

「ずっと俺としたかったん?」

最中に彼は聞いた。なんとも言えず黙っていると「俺としたいと思って来たん?」と言い方を変えられた。おもむろに頷くと電気が走るみたいに目が合って、その時やっと初めて彼の目に自分が映った気がした。

「かわいいな」

もうずっと、ずっと彼が果てないで、ずっとこのまま時がが止まればいいのに。そう思った。


終わると彼はベッドに腰掛けて煙草を吸った。
髪の毛を掻きながらスマホを操作していて、私は横たわったままその指をじっと見ていた。特に何を話すわけでも何を話しかけられるわけでもなく時間が過ぎた。

私に何の興味もない彼は、用の済んだ目の前の裸よりもスマホの向こう側の誰かを選んだ。そうしていると、とうとう眠いと言って寝てしまった。


目が冴えてしまった私はひとりでじっとして過ごした。
眠れなかった。目の前にある彼の寝顔。もうきっと二度と会えない。だから焼きつけておきたかった。この先いつでも容易く思い出せるくらいに。

窓の外が明るんで、さすがにうとうととしてきた頃、彼が寝返りを打った拍子にもぞもぞと動いた。そして私の方に身を寄せて、自分の額を私の額にくっつけた。

じわりとまぶたが熱くなった。
あたたかくて、情けなくて、どうしようもなく嬉しかった。
神様。時間、止めて。


一睡もできないまま朝が来た。
彼は早朝にスマホのアラームで目を覚まし、ゴルフがあると言って早々にひとりでホテルの部屋を出た。

「じゃ、また」

別れ際、ぽんと頭を撫でて彼は最後に嘘をくれた。「また」と嘘をくれた。「また」なんて無いと分かっている物分かりの良い私は、ありがとうございましたと上手に微笑んだ。

いや、本当は、嘘を渡したのはこっちの方だった。

嘘だった。彼氏はいないと言ったこと。
嘘だった。その日なら私も空いてますと返信したこと。
嘘だった。相手に合わせて嘘がつけるくらい大人だった。

そう、大人だから。
大人だから分かっていた。

「ヤレる女」を演じないと会ってもらえないと。

ひとり残されたホテルの部屋で、ベッドにごろんと横になる。彼のぬくもりがそこにあるのに、さっきまでここにいたなんてもうすでに信じられない。

昨日食事をした韓国料理屋も、手を繋いで歩いた新大久保の道も、夢だったのかもしれない。あんないやらしいセックスをしたことも、額に額をくっつけてきたことも。

もうすでに寝顔が思い出せない。


胸が痛くて痛くて痛くて死にそうだった。
「ありがとう。気をつけてね」とLINEを打って、送らなかった。


大丈夫。困らせたくないから本気になんてならないよ。
さらば、恋心。わたしの光。ずっとあなたのファンでした。
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