これ以上、あいつの名前を呼ぶ彼女の声を聞きたくなかった。
朝焼けに照らされる君は綺麗で、僕はそんな朝が好きだ。

僕には少し冷たい彼女がいる。
大学に入ってすぐ付き合い、もう2年。同棲もはじめた。

好きかと聞けば好きと帰ってくる。
ただそれだけ、いつもアピールするのは僕で彼女はただ返すだけ。
だけど、一緒にいる空間は心地よく大好きな、そんな彼女。

彼女は酒にはめっぽう弱く、酔って帰ってきた日には今までの彼女が嘘のように甘くなる。
こんな日は決まって朝まで彼女を抱く。

最近はサークルの仲間と飲んでるらしく、毎日の様に「T」が彼女を家まで連れてきてくれる。
「T」とは中学の時からの仲だったから、彼女と肩を組んで帰ってくる彼のことを特に不思議には思っていなかった。

ある日、いつもの様にベロベロに酔った彼女としている最中、彼女が「T」の名前を呼んだ。
翌日彼女にその事を話すと、聞き間違いだろう、と鼻で笑われただけだった。

その日から、最中に「T」を呼ぶ回数が増えていった。酔った彼女は覚えていない。
彼女は「T」の前ではどんな顔をしてるのだろう、どんなことを喋ってるのだろう。

日に日に彼女の帰ってくる時間は遅くなっていく。
しかしそれでも帰ってきた彼女を抱く。翌日も翌々日も。

部屋にはベッドがきしむ音、自分の情けない声しか響かない。
それ意外聞きたくなかった。これ以上、あいつの名前を呼ぶ彼女の声を。

もうすぐいつもの朝が来る。
僕は一体あと何回彼女とこんな朝を迎えるのだろうか。
違う男の名前を呼ぶ彼女を拒絶できないのはどうしてなのか。

拒絶したら、彼女も親友も失ってしまうから?
自分が我慢すればこの関係はまだ保つから?
2人に裏切られていることを認めたら自分が壊れてしまうから?

僕は自分に蓋をする。狂ったように彼女を抱く。


朝になり、彼女は眠りにつく。
綺麗な顔は朝焼けに照らされている。
そんな彼女に僕はそっとキスをする。


もう朝なんて、来なくていいのに。
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