彼女を無理に笑わせようと作っていた話題を、作るのが面倒になった。
緊張と期待で浮ついた自分の体が自分の体じゃないみたいな新学期。
ヤンキーと仲良くやれていることをラッキーに思ったり、
生活の全てが退屈なフリをして窓の外を眺めたりしていた僕と裏腹に、
彼女は雑音に紛れながらもいつも凛と澄ましていた。

彼女はクラスでも大人しい方で、一人で本を読んでいることが多かった。
多少の友達はいて、絵が上手くて、前衛的な音楽を聴いていて、美術部の幽霊部員で、家が学校から遠かった。

僕は夏になって退屈しのぎにテニス部に入部したり、ヤンキーにキレられたりしたが、彼女の周りだけは時間がゆっくり過ぎているように、止まっているかのように生きていた。
僕に無いものばかりを持っている彼女に、僕は触れてみたくなった。

「恋愛に興味がない。」

という彼女に、

「じゃあ、試してみませんか。」

なんて言って始まった。

彼女は僕のペースでは笑わなくて、一人の時間を持っていて、心優しい子だった。
彼女は好きな絵本作家を僕に教えてくれて、帰り道に一緒に駅まで歩いたり、たまに電話をしたりした。
たまに、何故か心配になってしまうぐらいか弱く感じる、繊細な子だった。

僕は「試してみませんか」なんていった手前、彼女に僕との関係を楽しんでもらいたかった。
彼女は僕の思い通りには笑わなかったが、初めて行ったカラオケで彼女は『しとど晴天大迷惑』を僕にリクエストしてくれて、喜んで聴いてくれた。

初めて彼女の家に行った日、駅で彼女は僕を待っていて、畦道を二人で歩いて、寄り道しながら向かった。
彼女の部屋は小綺麗でアンティークもお洒落で、日向のカフェみたいだった。
その日、彼女は僕を泊まらせてくれると言ったが、親御さんが許さなかった。
夜になって、行きで浮ついて通った畦道を二人で歩いて「ごめんね」なんていう彼女に「こちらこそごめん」なんて返すまともな会話をした。
その後、下手くそな沈黙があって、公園の前で抱きしめて初めてキスをした。
彼女の体は小さくて、髪からは優しい良い香りがして、キスはまさに甘酸っぱく感じた。
僕はとても幸せだったし、小さすぎる身体を守ってあげたいと思った。


段々と、明確な理由はわからないまま僕らはすれ違っていった。


夏祭りの日、彼女は目の上にものもらいをして、眼帯をして僕の家に来た。
夏祭りには、地元の友達や高校の友達も多くいて、眼帯をした彼女が少し恥ずかしく感じた。
彼女の家は祭りの場所から僕の家より何駅も遠い場所にあって、夜に送って行くことはできず、駅でバイバイをした。

最初は遅かった彼女のラインの返信が早くなって、僕のラインが遅くなった。
彼女を無理に笑わせようと作っていた話題を、作るのが面倒になった。
彼女と遊ぶより友達と遊ぶ方を優先してしまうようになった。
たったの一年でいろんなことが変わっていく。


ラインで別れ話を切り出した僕に、
「いままで迷惑たくさんかけてごめんなさい、本当は別れたくないけど、今まで本当にありがとう。
ちゃんと言ってくれてありがとう。涙が止まんないです、未練たらたらでごめん」

と長文のラインをくれた。
普段淡白な彼女が感情を全面に出してくれた最後の瞬間だった。


その後僕らは近い関係からは離れたまま、高校を卒業した。
彼女は仙台の大学に進学してすぐに、4個上の先輩の子を身篭って一年で結婚したらしい。

悔しくて、名残惜しかったけど、自ら手放した僕の口からは言葉は出てこない。
僕が幼すぎたのだ。

凛としていて華奢な彼女は、もう僕の手の届かない場所にあった。
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