彼を失うくらいなら、知らないフリをして一緒にいたかった。
⚠この純猥談は浮気表現を含みます。
仕事をしている彼の横顔が好きだった。
時計の修理師で、ルーペを目につけている真剣な横顔がセクシーだった。
付き合って数ヶ月たった頃、
残業が続きすぎた私は体調を崩してオフィスで倒れてしまった。
病院に駆けつけた彼が言った
「もう、仕事やめな。それで俺の家に引っ越しておいで。」
「俺が支えるから、何も心配しなくていいよ」
真剣な顔で彼が言うから、泣きたいくらい嬉しかったのに、
「なにそれ。奥さんにでもしてくれるの。」
急にそんなこと言われて恥ずかしくなってしまい、ふざけて返してしまった。
彼は、「うん、そのつもり」と躊躇なくさらっと言った
私は仕事をやめて彼のマンションで同棲を始めた。
わたしの両親にも挨拶をしてくれて、結婚を前提に同棲することを許してもらった。
今日は何が食べたいかな。
明日のワイシャツはこれがいいかな。
彼のことを考えて過ごす日々は、穏やかで楽しくて。
人生の中でこれほどまでに愛し愛されていることが、幸せだと感じた時間はなかった。
彼はいつも甘く暖かくわたしを愛してくれた。
ベッドの上でも、いつも優しかった。
細くて長いきれいな指で、
「痛くない?」
「この体勢苦しくない?」
「こうされるの、いや?」
いつだって私を1番に気遣ってくれた。
彼が大好きで、大好きで、心の底から彼を信じていた。
彼の副業を手伝うようになり、彼のSuicaをパソコンのカードリーダーでチャージしてあげようとした時に、見てはいけないものを見てしまった。
残業や飲み会で遅くなると言っていた日に、毎回おなじ駅で降りている履歴。
スーっと頭からつま先まで冷たくなっていく感覚。
見なかった事にしよう。
忘れてしまおう。
だって今日も彼は、こんなに優しい。
だいじょうぶ、だいじょうぶ。
自分に言い聞かせて、何もなかった事にしようとした。
けれど、私の中にドロドロと渦巻く不安は日に日に大きくなっていき、やめておけばいいのに、また履歴を見てしまった。
見えてきたものは、期待していたような不安を晴らしてくれるものではなく、疑いを確信に変えるものだった。
彼に聞くしかないと思った。
けれどこの状況に決着をつけるという事は、その結末には、彼とお別れする結果がある。そうなっても構わないと覚悟しないといけない。
その決意を踏みとどまってしまうほどに、彼のことが大好きだった。
失うくらいなら、このまま知らなかったことにして一緒にいたいと思った。
けれど、日に日に、これまで嬉しかった、
「だいすきだよ」も「世界で1番かわいいよ」も
全てが薄っぺらな嘘で出来ていると知り、何を言われても涙しか出なくなってしまった。
どんどん壊れていく私を見て、彼は話をしようと言ってくれた。
朝になるまで話をした。
結婚することで背負う責任とプレッシャーから逃げ出したくなった彼の気持ち。
ただの彼氏彼女の関係に戻りたかった、本当の思い。
そこから抜け出したくて、他の人と会っていたこと。
彼の気持ちに気づかず、一人幸せに浸っていた自分が情けなくて、彼の不安を消し去るほどに幸せにしてあげられなかった自分に腹が立った。
いつも、私は自分が幸せになることしか考えていなかったんだって、後悔の気持ちでいっぱいになった。
私たちは泣きながらお別れすることを決めた。
彼のことが大好きな気持ちは変わらなかったけど、一緒にいるともっと辛くなることが分かっていたから、お別れする事を選んだ。
彼の部屋を出ていく日の朝、彼は先に仕事に出て行った。
いつもの「いってらっしゃい」のかわりに、
「いっぱい、ありがとう。さよなら」と言って、思い切りハグをして見送った。
ポストに合鍵を入れるのに、何十分もかかった。
歩き始めるのに、何十分もかかった。
前向きなお別れだと言い聞かせて、泣きながら歩いた。
私がゼンマイを巻きすぎて、ちぎれてしまったのか。
歯車が噛み合わなくなって、折れてしまったのか。
今でも時計を見ると彼のことを思い出す。
上手く歯車の噛み合う相手と、ずっと時を刻んでいてくれたら、私は幸せです。
時計の修理師で、ルーペを目につけている真剣な横顔がセクシーだった。
付き合って数ヶ月たった頃、
残業が続きすぎた私は体調を崩してオフィスで倒れてしまった。
病院に駆けつけた彼が言った
「もう、仕事やめな。それで俺の家に引っ越しておいで。」
「俺が支えるから、何も心配しなくていいよ」
真剣な顔で彼が言うから、泣きたいくらい嬉しかったのに、
「なにそれ。奥さんにでもしてくれるの。」
急にそんなこと言われて恥ずかしくなってしまい、ふざけて返してしまった。
彼は、「うん、そのつもり」と躊躇なくさらっと言った
私は仕事をやめて彼のマンションで同棲を始めた。
わたしの両親にも挨拶をしてくれて、結婚を前提に同棲することを許してもらった。
今日は何が食べたいかな。
明日のワイシャツはこれがいいかな。
彼のことを考えて過ごす日々は、穏やかで楽しくて。
人生の中でこれほどまでに愛し愛されていることが、幸せだと感じた時間はなかった。
彼はいつも甘く暖かくわたしを愛してくれた。
ベッドの上でも、いつも優しかった。
細くて長いきれいな指で、
「痛くない?」
「この体勢苦しくない?」
「こうされるの、いや?」
いつだって私を1番に気遣ってくれた。
彼が大好きで、大好きで、心の底から彼を信じていた。
彼の副業を手伝うようになり、彼のSuicaをパソコンのカードリーダーでチャージしてあげようとした時に、見てはいけないものを見てしまった。
残業や飲み会で遅くなると言っていた日に、毎回おなじ駅で降りている履歴。
スーっと頭からつま先まで冷たくなっていく感覚。
見なかった事にしよう。
忘れてしまおう。
だって今日も彼は、こんなに優しい。
だいじょうぶ、だいじょうぶ。
自分に言い聞かせて、何もなかった事にしようとした。
けれど、私の中にドロドロと渦巻く不安は日に日に大きくなっていき、やめておけばいいのに、また履歴を見てしまった。
見えてきたものは、期待していたような不安を晴らしてくれるものではなく、疑いを確信に変えるものだった。
彼に聞くしかないと思った。
けれどこの状況に決着をつけるという事は、その結末には、彼とお別れする結果がある。そうなっても構わないと覚悟しないといけない。
その決意を踏みとどまってしまうほどに、彼のことが大好きだった。
失うくらいなら、このまま知らなかったことにして一緒にいたいと思った。
けれど、日に日に、これまで嬉しかった、
「だいすきだよ」も「世界で1番かわいいよ」も
全てが薄っぺらな嘘で出来ていると知り、何を言われても涙しか出なくなってしまった。
どんどん壊れていく私を見て、彼は話をしようと言ってくれた。
朝になるまで話をした。
結婚することで背負う責任とプレッシャーから逃げ出したくなった彼の気持ち。
ただの彼氏彼女の関係に戻りたかった、本当の思い。
そこから抜け出したくて、他の人と会っていたこと。
彼の気持ちに気づかず、一人幸せに浸っていた自分が情けなくて、彼の不安を消し去るほどに幸せにしてあげられなかった自分に腹が立った。
いつも、私は自分が幸せになることしか考えていなかったんだって、後悔の気持ちでいっぱいになった。
私たちは泣きながらお別れすることを決めた。
彼のことが大好きな気持ちは変わらなかったけど、一緒にいるともっと辛くなることが分かっていたから、お別れする事を選んだ。
彼の部屋を出ていく日の朝、彼は先に仕事に出て行った。
いつもの「いってらっしゃい」のかわりに、
「いっぱい、ありがとう。さよなら」と言って、思い切りハグをして見送った。
ポストに合鍵を入れるのに、何十分もかかった。
歩き始めるのに、何十分もかかった。
前向きなお別れだと言い聞かせて、泣きながら歩いた。
私がゼンマイを巻きすぎて、ちぎれてしまったのか。
歯車が噛み合わなくなって、折れてしまったのか。
今でも時計を見ると彼のことを思い出す。
上手く歯車の噛み合う相手と、ずっと時を刻んでいてくれたら、私は幸せです。