過去よ、さようなら
ひと月前に別れた元彼から連絡がきた

ものすごく好きだった

一人暮らしの私の家に入り浸っていたせいで振られてから思い出すのが怖くて家に帰れなくなった

無意識に同じ銘柄の煙草を選んで買って

街中ですれ違う人達の中に同じ香水の匂いを探した

1ヶ月振りの連絡
「申し訳ないんだけど終電逃してしまったから泊めてほしい」

なんだこいつ

そう思っていたけど私の返事は決まっていた

「何時に来るの」

心の中で悪態をつきながら本当はどうしようもなく嬉しかった

仕事が終わるまであと2時間

上の空で仕事をこなした
ちゃんとこなせていたか記憶がない

仕事が終わってから走って駅まで向かった

記憶の中の元彼と変わらずかっこよかった
記憶よりももっとかっこよかった

再会に胸が踊る

けど素直にまた会えて嬉しいなんて言えるほどかわいい女ではない

わざと素っ気ない
もうあなたに興味ないですよ、という態度をとった

家に帰る道
歩いていて手が触れるか触れないか

前ならこの道を手を繋いで歩いていたのにな
と思うと切なくなった

本当に好きだったから都合のいい女になりたくなくて別々で寝ると言った

案の定「一緒に寝ようよ」と言ってきた

彼にしては珍しく粘る
いつもはあっさり引き下がるのに

10分ぐらい格闘しただろうか
結局根負けして一緒の布団に入った

抱き締められてキスをした

おかしい

すごく好きだった
また会えて嬉しかった
抱き締められて嬉しかった

気持ち悪かった

キスをされた途端に全部気持ち悪くなった

これからセックスするんだろうな
ちゃんとわかっていた
わかっていて家に入れたのにどうしようもなく気持ち悪くて悲しくなった

その気持ちのままセックスをした

夢にまでみた
最高なセックスのはずだったのに

付き合っていた時のように
抱き締められて煙草味のキスをしても
身体の隅の隅まで全部暴かれても
1番深いところまで繋がっても

最低な気分だった

あまりにも想像と現実の落差がありすぎて涙が出てきた
なんて自分勝手なんだろうか

一緒に居たくなくて口をついて出た
「今すぐ出て行って」

酷いと思った
だって今は夜中の3:00だ
電車も動いていないし、タクシーで帰るには遠すぎる

彼は「わかった」と出て行った
この時はあっさりと引き下がってくれた
お互い察していたんだろうな

1人に戻った部屋で煙草を吸った
ずっと前から私が吸っていた銘柄
元彼の銘柄の煙草はゴミ箱の中

彼が恋しいわけではなく
あの時のあの甘い時間が恋しかったのだ

好きだと思っていた
けれど彼のことを好きで居続けている自分が好きだったのだ

気づいてしまった

過去に恋している自分にディープキスやセックスは現実的で生々しすぎた

「またね」
そう言って彼は出て行った

「うん、またね」
そう返した




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彼の匂いを消すために窓を開けて部屋中にファブリーズをした




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