好きって言ってくれなかったくせに。
Aのことを好きになったのはいつだっただろうか。

Aと初めて会ったのは、大学2年生の夏に俺がある学生団体に入った時だった。Aはその団体の副代表をしていた。

最初は、サークルの副代表をこんなおっとり系の子が?と思っていたが、自分の意見を持ちつつ、全体をとりまとめるのが上手で、なおかつ細やかな配慮も欠かさない。周りから推されてなったというのもうなずけた。

基本的にAと会う時は他のメンバーも一緒だったが、たまたま活動の終わりに2人で夜にラーメンを食べに行ったことがあった。

俺は自分の意見もはっきり言ってしまう方で、皆と反対の意見を言うことに迷惑してないかと聞いてみたら「君は理由があったうえで意見してくれるから。表面上はうんって言ってる人たちより、ずっと信頼できるよ。」Aはそう言って笑った。

その日のことがきっかけになり、たまに2人で飲んだりするようになって、徐々にAは普段言えない愚痴や相談をしてくれるようになった。


だが、友達関係以上に距離が縮まることはなかった。
解散はいつも24時前。最初の頃に、送って行こうか?と聞いたが笑って断られてしまったため、その後はなんとなくいつもと同じ踏切で別れた。


今思うと俺はその時からAを好きになりかけていたのだと思う。というか、なっていた。


Aは、大学に入ってすぐくらいに彼氏と別れていた。Aは可愛くて性格も良いので結構モテていたが、アプローチした男は皆ことごとくかわされる。どことなく俺には心を開いてくれている気がしていたが、そこに異性としての好意は感じられなかった。


この関係を壊したくない気持ちと、ダメ元でも伝えたい気持ちが入り混じって、悩む日が増えた。


そんな時に、Aが半年間海外に留学に行くことが決まった。

留学に行く前に、最後に2人で飲もうとなった時、俺はふられる覚悟でその日に気持ちを伝えようと決めていた。学生団体を引退したAと会ったのは久々だった。

9月頭の、夏の終わりを感じる涼しい夜。帰り道に公園の前を通りかかって、Aがもうちょっとだけ、と言ったため、ブランコに座りながら少しだけ話すことになった。

会話が途切れたタイミングで、話したいことがある、と俺が切り出した。

そこで意外なことが起こった。
Aが「私も話したいことがあるんだけど、良い?」と。


心臓が跳ね上がった。もしかして、Aも…?
だが、Aが続けた言葉は俺が想像もしていないようなことだった。


「実は私ね、ずっと言ってなかったんだけど、〇〇と付き合ってるんだ」


〇〇は、俺たちと同じ学年で、団体の代表だった。
俺はあまりのことにびっくりして言葉を失った。


「〇〇、他の大学に彼女いるって言ってるじゃん?あれ、嘘なの。本当は私と1年生の終わりくらいから付き合ってるんだ。君のこと信頼してるし仲良いと思ってるから、ずっと嘘ついてるのも悪いなって思って、それで…」

途中から、半分聞いてなかった。

隠されていたことにも、Aが好きでずっと見ていたのに気付かなかった自分にも、このタイミングで俺に話してきたAに対しても、裏切られたような、怒りのような、泣きたいような感情が湧き上がってきた。

やっと絞り出したのは「そっかー。びっくりだな。本当に全然気付かなかった。頑張って隠してたんだな。」という言葉だった。

「正直私はバレてもいいんだけどね。相手が言いたくないって。だから、君に話したことも内緒ね。」

Aは、俺の気持ちも、俺がその日何を言いたかったのかも、分かっていたんだろう。

俺の話が何だったのかは聞いてこなかった。

そのままAは留学に行き、俺は空虚な気持ちで半年間を過ごしていた。


半年後、Aが帰国した後、急に連絡が来た。
「今から会えない?」と。

聞いたよね?と彼女が切り出した。

〇〇が同じ団体の1つ下の子と付き合いだした、という噂を聞いていた俺はうなずいた。

「本当に誰一人、私たちのこと疑ってなかったんだなって。おかげでこの1週間は、好奇心剥き出しで後輩と〇〇の話をしてくる皆に、笑顔張り付けて、私も知らなかったんだよーびっくりだよねーって繰り返すだけの女になってたわ。」

Aは半分笑いながら言っていたが、目の奥が虚ろだった。


大学院に進学することを決めていた俺は、それからしばらくは院試の勉強に没頭していた。
無事第一志望の院に受かり、Aは「お祝いしよう」と言ってくれた。
たまたまAが留学に行く前に最後に話したのとちょうど同じくらいの、夏から秋に移り変わる時期だった。

そしてその日の夜、俺はAと寝た。

居酒屋を出て歩いていると、1年前にAと話したあの公園があった。また同じようにブランコに座って話をしていた。

どうやら、〇〇と後輩はあまりうまくいってないらしい。
そして〇〇はAに、暗にやり直したいと言ってきたそうだ。

「こいつ、何言ってるんだろうって。毎日忘れられなくて泣いてたし、何度も私のところに帰ってきてって思ってたのに。ほんとに好きだったら、やり直そうって思うのかなあ」

俺はなんて言ったら良いのか分からず、Aを衝動で抱き寄せてしまった。
Aの身体が一瞬強張ったが、拒否する感じではなかった。


無言で手を繋いで、2人で俺の家に帰った。
誰かに見られたら、ということも考えたが、別に困ることはなかった。

そのままAと身体を重ねた。めちゃくちゃ気持ち良かった。

もしかしたら演技も入っていたかもしれないが、俺も経験がないわけではなかったから、Aが声を抑えようと必死だったことも、何度か達してしまっていたことも、演技だけじゃないことは感じていた。

終わってからも、離れたくなくてずっとくっついていたら、Aが静かに涙を流していることに気づいた。

びっくりして「ごめん。嫌だった…?痛かった…?」と聞いたら、違うの、とAが慌てて言った。


「〇〇とは、一回も大学の近くで手を繋いだこととかなくて、そういうのがきっと寂しかったんだなって。」


泣き続けるAの頭を撫でながら、愛おしさと、俺の腕の中にいるのに、それでもなお〇〇の話をするAに対する悲しさが同時にきた。
気がついたらAはそのまま寝てしまっていた。


それからAが、翌年の夏に大学を卒業するまで、月に1回くらい会って身体を重ねるようになった。

Aの卒業が迫ったある日、Aの家で過ごしていたら、
俺のものではないコンドームの袋の切れ端を見つけてしまって頭の中がカッと熱くなった。

その日は、もやもやが冷めきらぬままことに及んだ。
今までしたことがなかったが、挿入しながらAの首に手をやり、軽く力を込めて絞めてみた。
嫌がるかと思ったが、一瞬苦しそうな顔をしたあと、目でもっと、と言ってきた。
こういうことをされるのが、初めてではない反応だと思った。
Aに過去同じことをしたであろう男の顔を想像しかけて振り払った。

Aは〇〇と別れてからも会っていたのだろうか。
俺が知る限りは、なんだかんだ〇〇と後輩は、少なくともAが卒業してからもしばらく続いていた。


Aは卒業して就職のために東京に引っ越して行き、全く会わなくなった。
俺はというと、大学院の間で1人彼女ができたが、1年くらいで別れてしまった。


そして、卒業して東京の会社に就職した。

新卒の研修が終わって落ち着いた頃にAに連絡してみたら、勤め先が割と近く、仕事終わりに会おうとなった。

2年近くぶりに会うAは、大学生の時よりずっと、綺麗になっていた。
それでも俺の名前を呼ぶ声や、どこまでも優しく人を包み込むような雰囲気は変わってなかった。

飲みながら、大学の同期の近況や仕事の話はしたが、どちらも恋愛の話は一切触れなかった。


最後駅まで歩く道すがら、俺はなにを思ったのか、
「結局Aは俺とは付き合ってくれなかったよなー」
と言ってしまった。


すこし先を歩いていたAはふりかえらずに、


「よく言うよ。好きって言ってくれなかったくせに。」


と笑いながら言った。


頭を殴られたように思った。


そうだ、俺は一度もAに好きと言っていない。
思いを伝えようと決意した2年前でさえ、言っていない。

その言葉をちゃんと言えていたら、何かが変わっていたのだろうか。だとしたら、いつのタイミングだったのだろう。


その後、Aとは会わなくなって、連絡も取っていない。

最近人づてに、Aが同じ会社の人と入籍したと聞いた。
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