ちょうどお前みたいな感じの人だよ
彼はサークルの先輩だった。
途中加入して、少々浮き気味だった私に、何かと構ってくれたのが彼だった。
根っからの優等生気質で、兄貴肌で、底抜けの優しさを持っている彼のことが、みんな好きだった。
一方私はコミュ障で、距離感というものがよくわからず、人と接することがうまくいかなかった。
やめておけばいいのに、私はなんとなく誰かと恋に落ち、たちまち嫌になって別れるというバカを繰り返した。
サークルを荒らしまくる私に、彼はいつも「ほんとバカ」と言った。
そして一緒にお酒を飲んで、買い物に行って、ダーツをして、カラオケをして。

先輩後輩だったけど、私たちは本当に仲がよかった。
タメ口で話す私に対し、「お前だけは特別な」と彼は言った。


彼とは、距離感を間違えなかった。


周りからはなぜ付き合わないのかとよく聞かれた。
彼は「結婚式に呼びたい人ナンバーワン」と私を称した。
私は「世界一幸せになって欲しい人」と彼を称した。

ある時私は彼の家で終電を逃した。
「しょうがないから泊まってきな」と彼は言い、一つしかないソファーベッドに枕がわりのクッションを並べた。
彼は「おやすみ」と頭を撫でて、それきり背を向けてベッドの端の方に転がった。私が寝返りを打って彼に近づくと、もう既に端にいるのに、落ちそうなくらいギリギリの端まで行って私を避けた。

私たちの距離感は完璧だった。

互いに大学を卒業してからも私たちの仲の良さは変わらなかった。
相変わらず不毛な恋を繰り返す私に「やっぱりバカ」と言って彼は笑った。

そんな彼に、彼女ができた。
「どんな人なの?」と私が問うと、彼はうーんと考え込みながら言葉を紡いだ。大学の後輩で、でも後輩だけど友だちみたいな感じで卒業してからもずっと仲が良くて。
「ちょうど、お前みたいな感じの人だよ」

その時にようやく、私は自分の自惚れに気づいた。
知らなかったわけではない。
彼はいつもみんなの中心にいる人だった。
大学のキャンパスで1人で歩いている私は大勢の人に囲まれている彼に話しかけることができず、いつもうつむいた。
そんな私に彼はすぐに気づいて、当たり前のように抜け出して声をかけてくれた。そして颯爽と群れの中に戻っていった。
彼は誰にでも優しく、どこに行ってもうまく馴染んだ。

特別だと思っていたけれど、きっとそうではなかった。
いくらでもいるなかの1人だった。

私にとっては特別だった。距離感を間違えずにいられる、唯一の人だった。
彼といると、私もまともになれる気がした。
それは、大きな勘違いだった。
ただ彼が優しすぎたから、成り立っていただけだ。本当はすごくすごく遠い人だった。

彼は私みたいだと言った彼女と同棲を始め、結婚を考えているらしい。
変わらずに私と会ってくれる。
大学生の頃と何も変わらず、誰に対しても優しい笑顔を私に向ける。

そして私も大学生の頃と何も変わらなくて、いまだに彼以外の人との人間関係はあきれるほどにうまくいかない。
そんな私に対し、彼は「バカ」ではなくて「そろそろ大概にしとけよ」と言って笑うようになった。

彼はきっと私を結婚式に呼んでくれるだろう。結婚式に呼びたい人ナンバーワンがたくさんいる結婚式で、私は彼が世界一幸せになることを願うのだ。


本当は私だって、彼のようになりたい。
私だって、世界一幸せになりたい。
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