好きなだけで、何も伝えてこなかった。
東京に来て3年が経った。
人身事故があった時の乗客の舌打ちにも、雪が降らない冬にも、もう慣れた。

あれは、僕が東京に来て1年目の事だ。
僕は大学生になってから、半年だけ付き合っていた女の子がいた。

彼女は隣で眠っている僕を、うれしそうに眺めるようなそんな、かわいい人だった。


彼女とはライブハウスで知り合った。
僕がやっているバンドのライブで、スタッフをしていたのだ。

偶然、同じ大学で、校内でも彼女を見かけることがあった。

綺麗にカールされた髪と、適度に飾られた爪先、濃すぎないメイク、
加えて、無邪気な笑顔と敵をつくらない性格で皆から好かれていた。

彼女にはその自覚はなく、それがますます好意的だった。

ある日、ライブの打ち上げで彼女と会った。
いつもはあまりこういう場にはこないのだが、この日は来ていた。

程々にお酒も進んできて、彼女が僕に話しかけてきた。

「今日、よかったよ。」

なんて、定型文を言ってきた。

「ありがとう」

と精一杯の笑顔で答えた。

それから好きなバンドの話、好きな服のブランド趣味が合い、語り尽くした。

その事がきっかけでフェスに行ったり、服を見に行ったりした。
たまに呑みにも行った。

3ヶ月ぐらい過ごしていれば、そういう話が出てもおかしくない。

そのままの流れで、僕らは付き合うことになった

早朝のバイト終わりに彼女が待っていてくれて、それからベッドに入る。
彼女の熱を抱いて、事が終われば煙草を吸う。
そんな僕に抱きついてくる。

人生で、1番幸せだと思った。

それから数ヶ月が経って、彼女の写真も増え、カメラロールは彼女で埋まった。
彼女のいる毎日に慣れていった。

慣れすぎてしまったんだと思う。

僕のバイトが終わってから日をまたいでから帰ることが多く、ゆっくりできないことが続いていた。
彼女の話も聞かず、ただ熱を押し付ける日々。

彼女はいつも何か言いたげだった。

気付かないふりをした。
ちゃんと愛しているつもりだった。

でも、愛を貰っていたのは僕の方で、なにも与えられていなかった。

彼女はもう、僕に抱きついて来なくなった。
セックスが終わっても、スマホを見ているだけになった。

「もう、僕には気持ちがないんだろ?」

わかっているけど、聞いてみた。

「そうかもしれない。」

と、彼女は少しだけ微笑んで言った。

長い沈黙のあと、最後だと思ってキスをした。

長い長いキスをした。
ゆっくりと互いの熱を交換して、抱き締めあった。
セックスが終わったあと、僕はベランダで煙草を吸った。
泣きそうになったのを誤魔化したかった。

「1本ちょうだい。」

彼女は煙草を吸わない。
欲しがることなんてなかった。

彼女は煙草を受け取ると、僕の咥えている煙草の先端に押し付けてきた。

こんな時に、ずるかった。

2人で苦い煙を吸い込んで、吐き出して。

彼女はむせていた。
そして泣いていた。

「苦いからだよ」

なんて、誤魔化ながら。


夜が明ける。空気が青くなる。

「もう冬になるんだってさ。」

雪が降らないから、冬な気がしなかった。

「北海道はさ、空気が澄んでて、雪が綺麗に光るんだよ。」


今度一緒に行こうか。

と言おうとした。

でも、言えない。
終わりだってわかってるから。

好きなだけじゃ一緒にいられない、
なんてどこかの誰かが腐るほど言ってたっけ。

彼女の気持ちが僕にないことを、責める権利はない。

知らないふりをして、見て見ぬ振りをしていた僕のせいだ。

最後に彼女がないていたのは、
「なんとなく寂しい」ぐらいの気持ちだったんじゃないだろうか。

僕は彼女が好きだった。
好きなだけだったんだ。

好きなだけで、何も伝えてこなかった。


彼女がいない、3度目の冬が来る。

あれから彼女はすぐにバイトを辞めた。
新しい彼氏が出来ていた。

僕が与えられなかったものを、貰えているといいなぁとひたすらに思う。

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