腰を振りながら、私の名前を初めて呼んだ
大阪の大学に通っていた頃、ちょっと気になる男性がいれば積極的にセックスをしていた。
セックスは、他人には見せない特別な自分を見せられる究極の行為だと思う。だからセックスをすればその人のことがよく分かる。その考えは今でも変わらないが、当時は失うものがほとんどない無敵の21歳だった。セックスしまくっていた。
彼と出会ったのはそんな頃だった。
彼は特に目立つ容姿でもなく、女の子にがっつく風でもなく、斜に構えた文学青年だった。あと、口が悪かった。
たまたま選択した英文法のクラスに彼はいた。
1回目の授業でグループワークをすることになり、近くの席に座っていた私たちは同じ班になった。
同じ班のメンバー同士が自己紹介をすることになり、お互いを英語名のあだ名で呼ぶことになった。私は彼をモーリス、彼は私をグレイス、と名付けた。それからは、お互いの本名を呼ぶことはなく、あだ名で呼び合うようになった。
その後、友人も交えて飲みに行ったり、2人で飲むようにもなった。私はいわゆる美人といわれる容姿だが、モーリスは私を口説くことはなく、「グレイスは顔はええけど中身が残念すぎるわ」「離婚前提なら結婚してもええ」などと悪態をつき、私は意外にもそれを心地良く思っていた。
男性にそんな風に扱われたことがなく新鮮だったのだ。エロい関係には一切ならず、彼は私を男友達のように扱った。
当時、私は大学の近くで一人暮らしをしていて、よく私のアパートで彼と酒を飲んだ。
彼がうちに泊まることもあったが、エロいことは何もなかった。同じベッドで寝ていたにも関わらず。
私が酔って彼に抱きつくこともあったが、その度に彼は「あー、お前めんどくさいで」とかわしていた。そして翌朝、いつもだるそうに帰っていった。
モーリスと出会って1年ほど経ったある日。
いつものように私のアパートで酒を飲んでいた。
私も彼もだいぶ酔っ払っていた。
いつものように同じベッドに入り、酒で高揚した気持ちと、眠さとの隙間の非日常感を楽しみながら、他愛もない話をしていた。この日はなんだか眠ってしまうのが惜しくて、布団の中で2人とも遅くまで起きていた。
彼に抱きつくと、この日はいつもと反応が違った。
普段なら悪態をつくはずの彼が、
「俺、股間がエベレストやねんけど笑」と笑い出す。それにつられて私も笑う。
「なんでやねん!」「分からへん笑」と2人でゲラゲラ笑った。私がふざけて彼のエベレストを触り「お前ほんまにやめろよ笑」と軽くたしなめられたりした。
散々ふざけ合った後、自分がとてもドキドキしていることに気づいた。濡れていた。
そこで「私のマリアナ海溝もヤバイねんけど笑」と言うと、なんだかものすごくおかしくなってきて2人で笑った。
冗談半分で「どうする?笑」と聞く彼に、「しようよ笑」と返す私。彼は尻込みしていて、押し問答が続いた。表面上は笑っていても、張り詰めた糸の上にいるような緊張感があった。
したくてしたくてたまらないけど、お互いの出方を慎重に伺っていたんだと思う。「ほんまに言うてんの?」と、まだこの状況に戸惑う彼に、私は「ほんまに言うてる」と伝えた。
この時はもう2人とも笑ってなかった。
私に背中を向けて寝ていた彼が、急にこちらに向き直った。私の部屋着のTシャツを捲り上げ、乳首を吸ってきた。これまでエロい目で見たことのなかった友人が、私の乳首を吸っている!あまりにも想定外すぎる!この瞬間、ものすごく興奮した。この時のドキドキは、10年経った今でも鮮明に覚えている。
こんなに興奮したのは後にも先にもないだろう。
自分でも信じられないぐらい甘い声が出てしまった。顔が真っ赤だったと思う。電気を消しておいてよかった。それからキスをした。お互いに緊張していて余裕がなく、ただひたすら舌を絡めあった。
そして、いざモーリスのエベレストを私のマリアナ海溝に挿れるというときに、彼は私の顔を見て「ほんまにすんの? やめるなら今やねんけど笑」と意地悪く笑った。小さな声で「やだ、したい」と言うのが精一杯だった。
「俺めっちゃ緊張してるわ!笑」と言いながらも、エベレストがマリアナ海溝を侵食していく。いつも悪態をつく彼が、声を漏らす私を見て「可愛い」と言う。
モーリスは腰を振りながら、私の名前を初めて呼んだ。そして私も彼の名前を初めて呼んだ。
こうしてセックスしたわけだが、その後も以前のように友人関係は続いた。もう1度だけセックスしたが、それでも関係が変わることはなかった。セックスをして、彼をより友人として好きになった気がした。
恋愛感情が一切なかったわけではないが、付き合うとか、そういう話にはならなかった。そして大学卒業後、彼は就職のため名古屋に引っ越していった。
時々名古屋からかかってくる電話で、あの日の夜のことを笑い話として語るのがとても好きだった。
「あれはよかったなあ!またしてもええな笑」「めっちゃ緊張したよなあ笑」といった具合に、お互い少し牽制しながら触れる。
あえて笑い話にすることで、私はあの日のことを重く考えないようにしていたのかもしれない。
彼とは、卒業以来会っていない。
電話もかからなくなった。
でも、あの日のことは今でもよく思い出す。
あんなに興奮する夜は、これから先、もうきっと訪れないだろう。
セックスは、他人には見せない特別な自分を見せられる究極の行為だと思う。だからセックスをすればその人のことがよく分かる。その考えは今でも変わらないが、当時は失うものがほとんどない無敵の21歳だった。セックスしまくっていた。
彼と出会ったのはそんな頃だった。
彼は特に目立つ容姿でもなく、女の子にがっつく風でもなく、斜に構えた文学青年だった。あと、口が悪かった。
たまたま選択した英文法のクラスに彼はいた。
1回目の授業でグループワークをすることになり、近くの席に座っていた私たちは同じ班になった。
同じ班のメンバー同士が自己紹介をすることになり、お互いを英語名のあだ名で呼ぶことになった。私は彼をモーリス、彼は私をグレイス、と名付けた。それからは、お互いの本名を呼ぶことはなく、あだ名で呼び合うようになった。
その後、友人も交えて飲みに行ったり、2人で飲むようにもなった。私はいわゆる美人といわれる容姿だが、モーリスは私を口説くことはなく、「グレイスは顔はええけど中身が残念すぎるわ」「離婚前提なら結婚してもええ」などと悪態をつき、私は意外にもそれを心地良く思っていた。
男性にそんな風に扱われたことがなく新鮮だったのだ。エロい関係には一切ならず、彼は私を男友達のように扱った。
当時、私は大学の近くで一人暮らしをしていて、よく私のアパートで彼と酒を飲んだ。
彼がうちに泊まることもあったが、エロいことは何もなかった。同じベッドで寝ていたにも関わらず。
私が酔って彼に抱きつくこともあったが、その度に彼は「あー、お前めんどくさいで」とかわしていた。そして翌朝、いつもだるそうに帰っていった。
モーリスと出会って1年ほど経ったある日。
いつものように私のアパートで酒を飲んでいた。
私も彼もだいぶ酔っ払っていた。
いつものように同じベッドに入り、酒で高揚した気持ちと、眠さとの隙間の非日常感を楽しみながら、他愛もない話をしていた。この日はなんだか眠ってしまうのが惜しくて、布団の中で2人とも遅くまで起きていた。
彼に抱きつくと、この日はいつもと反応が違った。
普段なら悪態をつくはずの彼が、
「俺、股間がエベレストやねんけど笑」と笑い出す。それにつられて私も笑う。
「なんでやねん!」「分からへん笑」と2人でゲラゲラ笑った。私がふざけて彼のエベレストを触り「お前ほんまにやめろよ笑」と軽くたしなめられたりした。
散々ふざけ合った後、自分がとてもドキドキしていることに気づいた。濡れていた。
そこで「私のマリアナ海溝もヤバイねんけど笑」と言うと、なんだかものすごくおかしくなってきて2人で笑った。
冗談半分で「どうする?笑」と聞く彼に、「しようよ笑」と返す私。彼は尻込みしていて、押し問答が続いた。表面上は笑っていても、張り詰めた糸の上にいるような緊張感があった。
したくてしたくてたまらないけど、お互いの出方を慎重に伺っていたんだと思う。「ほんまに言うてんの?」と、まだこの状況に戸惑う彼に、私は「ほんまに言うてる」と伝えた。
この時はもう2人とも笑ってなかった。
私に背中を向けて寝ていた彼が、急にこちらに向き直った。私の部屋着のTシャツを捲り上げ、乳首を吸ってきた。これまでエロい目で見たことのなかった友人が、私の乳首を吸っている!あまりにも想定外すぎる!この瞬間、ものすごく興奮した。この時のドキドキは、10年経った今でも鮮明に覚えている。
こんなに興奮したのは後にも先にもないだろう。
自分でも信じられないぐらい甘い声が出てしまった。顔が真っ赤だったと思う。電気を消しておいてよかった。それからキスをした。お互いに緊張していて余裕がなく、ただひたすら舌を絡めあった。
そして、いざモーリスのエベレストを私のマリアナ海溝に挿れるというときに、彼は私の顔を見て「ほんまにすんの? やめるなら今やねんけど笑」と意地悪く笑った。小さな声で「やだ、したい」と言うのが精一杯だった。
「俺めっちゃ緊張してるわ!笑」と言いながらも、エベレストがマリアナ海溝を侵食していく。いつも悪態をつく彼が、声を漏らす私を見て「可愛い」と言う。
モーリスは腰を振りながら、私の名前を初めて呼んだ。そして私も彼の名前を初めて呼んだ。
こうしてセックスしたわけだが、その後も以前のように友人関係は続いた。もう1度だけセックスしたが、それでも関係が変わることはなかった。セックスをして、彼をより友人として好きになった気がした。
恋愛感情が一切なかったわけではないが、付き合うとか、そういう話にはならなかった。そして大学卒業後、彼は就職のため名古屋に引っ越していった。
時々名古屋からかかってくる電話で、あの日の夜のことを笑い話として語るのがとても好きだった。
「あれはよかったなあ!またしてもええな笑」「めっちゃ緊張したよなあ笑」といった具合に、お互い少し牽制しながら触れる。
あえて笑い話にすることで、私はあの日のことを重く考えないようにしていたのかもしれない。
彼とは、卒業以来会っていない。
電話もかからなくなった。
でも、あの日のことは今でもよく思い出す。
あんなに興奮する夜は、これから先、もうきっと訪れないだろう。