恋人でも友だちでもなくなった君。謝ってないで、いつもみたいにへらへら笑ってよ。
彼は同じ会社の人だった。

出会いは会社の飲み会だった。
部署の先輩に誘われて行った飲み会に彼はいた。
お調子者で、いつも輪の中心にいて、ホントか嘘かわからない話で周りを魅きつけた。
それでいて周りがよく見えていて配慮ができる。誰からも好かれていた。
そんな彼と私は同い年で、話もノリも合って、仲良くなるのにそう時間はかからなかった。


それまでの私は恵まれていた。
これまで付き合った人にはとても大事にしてきてもらっていたし、疑うことを知らなかった。
けれど、自分は恋愛において賢く振る舞うことができるし、
危険を回避することにも長けているのだと信じていた。

実際、彼が私の家に来るようになっても、何も起きなかった。
何度も私の家で夜遅くまで遊び、どうかすると一日中一緒にいたけれど、何もなかった。

「好き」「俺らってすげぇ似てる、お似合いだよな」「俺とおまえが結婚したら最高じゃね?」「もし俺がおまえと付き合えなかったとしても親友だと思ってる」

彼は時々そんなことを言っていたけれど、調子の良い彼の軽口だと思っていたし、
たとえもし本音だったとしても、それに気づかないふりをしていた。

好意を感じながら、何も求められず、楽しいを共有するのはとても居心地が良かった。
映画を観たり、動物園に行ったり、ふらふら夜の街を散歩したり、飲みに行ったり、一晩中電話をしたり。
スーパーで買い物中、同じ会社の人に会ったときはどきどきした。
ふたりであーだこーだ言いながらつくったご飯は美味しかった。
長い時間と思い出を共有した。

仲の良い男友達はいっぱいいたけれど、彼は特別だった。
私も彼のことを親友だと思っていた。


突然その関係は壊れた。

彼と知り合って半年以上経った頃だろうか。
気づいたら私はソファに押し倒されていた。
すでに唇が触れていた。
目が覚めたら、隣に彼が寝ていた。


その日から彼は冷たくなった。
毎日くれていたラインも電話もなくなり、デートの予定は全部帳消しになった。
気が向いたときだけ連絡を寄越し、夜会いに来て、朝帰って行った。
彼の変化についていけず、毎日泣いた。
知らないうちに自分が彼をこんなにも好きになっていたことを思い知った。
いつの間にか彼は、私にとって親友ではなく、好きな男になっていた。

好意は感じられない、ただただ体だけを求められる。そんな関係は辛かったけれど、止められなかった。
「それでも会ってくれるなら…」
「また前のように戻れるかもしれない…」
私は自分が思っていた以上に、恋愛において賢く振る舞うなんてことはできなくて、女々しくて、耐性がなかった。


2年くらいその関係は続いたが、彼が会社を辞めることが決まった。転職だった。
恋人でもない、友達でもない。そして、同僚でもなくなる。
ならばせめて友達に戻りたい。一度は親友だと言ってくれたのだ。
元のように、正真正銘の友達に戻りたい。そう私は願った。

「私たちはもう同じ会社の人じゃない。そうなったら私たちの関係ってただのセフレでしかないよね、そんなの嫌だよ」

そう言った私に対して、彼はごめん、と謝るだけだった。
いつものようにへらへら笑って、ホントか嘘かわからないような弁解をされるかと思っていた。
あるいは私は、また彼の口から「好き」という言葉を聞けると期待していたのかもしれない。

だけど彼はうなだれて、静かに「俺が全部悪かった」と言っただけだった。


あれから1年が経ったが、彼とは一度も会っていない。
時々考えることがある。当初私が感じていた彼の好意や、伝えてくれた言葉が何だったのか。
私が自意識過剰だったのか、ノリの軽い彼の意味を持たない冗談だったのか、もしかしたら真実だったのか。
今となってはわからないし、わかったところでどうしようもない。
でもひとつだけ、わかっていることがある。

「私たちはもう同じ会社の人じゃない。そうなったら私たちの関係ってただのセフレでしかないよね、そんなの嫌だよ」

本当はその先に「だから元の友達に戻ろう」と言うつもりだった。

私たちは友達に戻れるはずがない。
今更親友になれるわけがない。
もはや一緒に過ごした時間に意味はない。

そうわかっていたから、言わなかった。
元の関係に戻れることを願いながら、本当はわかっていたんだ。


何にもなれない私たちは、きっともう二度と会うことはないだろう。
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