もっとどうでもいい男と寝とけばよかった
⚠この純猥談は浮気表現を含みます。
不細工な男だと思った。
ディズニー映画の、悪役のトカゲみたいな、がちゃついた前歯と愛想の悪い目が目立っていて、それ以外は特別でもなんでもない男の子だった。そこらへんによくいるサブカル男子でしかなかった。

彼の存在を認知したのは、彼がサークルに入ってきてから2年目のときで、それまではわたしと彼はただの「サークルの人」だった。話をすることすらなかった。

確か、友人がその子をかわいいと言い出したのがきっかけだったと思う。かっこよくもない後輩を猫かわいがりする友人につられるようにして、わたしも彼をかわいがるようになった。

年下なんて本当のところはなに考えてるかわかんないし、目新しいことも言わないし、気を遣ってきてつまらないから、今までどの子とも仲良くならなかった。
でも彼は、何十人といる後輩たちのなかでも群を抜いて生意気で、でもどこか憎めない感じの不器用な子だったから、彼がわたしにとって一番かわいい後輩になるのに時間はかからなかった。

サークルの集まりで顔を合わせるたびに、新しく買った服を「めっちゃかわいくない?これ」と自慢してくるのがかわいかった。
集団が苦手なわたしたちはよくふたりでコンビニに行って、奢ってあげたり、奢ってもらったりした。
「これ好きなんだよね」「買えってこと?」
とか、笑いながら交代交代にレジに並ぶのが楽しかった。


サークルのライブのときに、だだっ広い楽屋でふたりでソファに腰掛けていた。もうとっくに次のバンドが始まっているのに、わたしたちは延々とどうでもいい話をして、けらけら笑っていた。
後輩ともっと話してたかったから、バンド見るの疲れた、って言葉に安堵したりしてた。

不意に右手に熱を感じて、後輩の手が触れてることがわかった。心臓が跳ねる。
こんな餓鬼に、こんな年下に、全然かっこよくない男に、こんなにどきまぎしてしまう自分が心底嫌だ。バンドの演奏が終わって、楽屋に戻ってきた瞬間、熱が離れて、でもまた人が少なくなると指に熱が絡んできた。
どうしようもなくどきどきしていた。

大学に入ってから、それなりに好きだと思える顔のいい男と寝てきて、自分でもどうしようもないような、重たい恋愛感情とは無縁になれたと思っていた。
なのに、そのライブの晩から、わたしは大学一年生ぶりに携帯の機内モードを解除して眠るようになってしまった。
本当に、自分が情けなくて悲しくて、だけどまた誰かを好きになれるらしいことが、少し嬉しかった。

半年ほどセックスをしてないから、一時的に処女みたいな気持ちになってしまってるだけだとわかっていた。恋愛の、片思いの一歩手前ぐらいの、上澄み部分だけを味わえれば、それでいい。
そう言い聞かせて、この感情は後輩への先輩愛にすることにした。

それから後輩とは頻繁に連絡するようになった。
後輩が飲みの帰りに電話をかけてきて、そのまま3時間だらだら話すような日々が続いた。
夜の電話相手にわたしを選んでくれたことが嬉しかった。眠そうに舌足らずに、わたしの名前を甘ったるく呼ぶ後輩の声を聞いていると、恋人以外にそんな声聞かせちゃ駄目なんだよ、と言いたくなった。


後輩には彼女がいた。
つきあってもうすぐで一年になる、同じサークルの彼女。わたしの嫌いなタイプの子だった。
腹黒いくせにその無害そうなベージュ色の服と曖昧な笑顔で、周りにいい子だと評されるような子。わたしとは対局にいるような子だった。

後輩は、もう半年以上セックスをしてないことをあっけらかんと言った。
「他の子と遊んだりしようかなって思うときもある」
「でも先輩のことはそういうふうに見てないから」
当たり前じゃん、と笑いながら、自分でもびっくりするぐらいに傷ついていた。

わたしは後輩にとってただの先輩で、そういう対象じゃない。だったら一番仲のいい後輩と、一番仲のいい先輩でいよう。そうすればわたしはこの子と楽しく最後の学生生活を過ごせる。
人生でここまで仲良くなれた後輩は初めてだったから、それだけでもう十分なはずだった。


ライブから少しして、打ち上げが開かれた。
二次会、三次会と朝まで続く長丁場で、後輩は三次会に遅れてやって来た。乾杯のときに、
「俺と先輩と、あと誰か誘って家で飲も」
と耳打ちされた。彼女の視線が痛かった。
そういうんじゃないと思いながら、そういうんじゃないならなんなんだろうと思いながら、たいして美味くもない酒を煽った。
その日のわたしは、そのとき一番気に入っていたワンピースで、一番可愛くあろうとしていた。

友人を数人誘って、皆バラバラのタイミングで抜け出ることにした。後輩が抜けて、わたしが抜けた。
「はやくきて」
LINEのメッセージを返すのももどかしくて、ヒールで階段を駆け下りた。
タクシー乗り場に後輩が立っていて、嬉しくて楽しくて、お互いにやにや笑ってしまった。

タクシーに乗り込んでしばらくしてから、後輩が手を握ってきた。
右手が熱くて、振りほどかなきゃいけないのに、できなかった。しらっとした顔で、なんてことないみたいな顔で、されるがままにしていた。
酔っているのはわかっていたから、何も考えないように窓の外を睨みつけていた。たぶん、握り返さなかったと思う。それでも後輩は手を離さなかった。

ふたりではしゃぎながらコンビニで酒とおつまみを選んだ。連絡のつかない友人を待ちながら、おつまみを食べていると、不意に後輩の唇が触れた。
照れたように笑う後輩に合わせてへらへら笑いながら、駄目だって、とか、そういう浅いことを言っていたような気がする。彼女いるのにこういうことするの終わってるよ、とか、お前が言うなよって感じのことを言ってみたりもした。

だけどやっぱり、目の前にいる不細工な男は、後輩として好きなんじゃなくて、ひとりの男の人として好きで、ほんとはそういうことはもうずっと前からわかってたから、だから、好きな人に求められて、拒絶できるわけがなかった。

キスしながら、身体をなぞられながら、可愛い、と何度も何度も言われて、気持ちよくて嬉しくて恥ずかしかった。他の男も何回もしてきたことなのに、まともに目が見れなかった。
わたしをさん付けで呼ぶ目の前の年下の男の子が馬鹿みたいにかわいくて、好きで、どうしようもなくわたしのものにしたかった。

「ほんとはすげー意識してた」
「こんな可愛い人にあんな笑顔で話しかけられたらそりゃどきどきするでしょ」

がちゃがちゃの歯並びで、愛想の悪い目。
わたしを一番仲のいい先輩だと思ってくれている、わたしの一番かわいい後輩。大好きな後輩。

自分を好いてくれる大切な彼女がいるのに、ちょっと可愛いだけのわたしと寝ることを選んだ馬鹿な後輩。後輩なんて、好きになりたくなかった。

それから1、2回後輩と寝た。下手くそなセックスだった。もう寝るのはやめよう、と決めたわたしたちは、だけど前のように一番仲のいい先輩と後輩には戻れなかった。

後輩が彼女と別れても、わたしたちの関係はどこにも戻らなかった。

一度でも寝てしまった男女特有の、めんどくさい、よそよそしい空気感が充満して、自然と顔を合わすことも少なくなった。夜の電話もLINEも、コンビニの奢りあいっこもなくなった。彼が今どんな曲が好きで、最近どんな服を買ったのか、そういうことも、もう全部わからない。


今度、最後のサークルの集まりで、一年ぶりに後輩と会うかもしれない。
大学生じゃなくなったら、わたしと後輩は、もう「サークルの人」にすらなれない。

会えなかったら、後輩はもう後輩じゃなくて、きっとこれからの人生でもう二度と関わらないわたしを可愛いと言って抱いた男のうちのひとりになる。その他大勢になる。

キス以外は下手くそなセックスだった。
もっとどうでもいい男と寝とけばよかった。
後輩とは寝なかったらよかった。

わたしたちのセックスにはなんの価値もなかった。
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