願わくば、来世は無性生殖の生き物になりたい
彼は高校の同級生で、私の初恋の人。
成人式で再会して、連絡を取るようになって、告白されて、付き合った。

私にとっては初めての彼氏。なんだか恥ずかしくて、手を繋ぐタイミングもわからないまま1ヶ月が過ぎた。不慣れな私のペースに合わせてくれる彼が好きだったし、このままプラトニックな関係が続いてもいいとさえ思っていた。今考えれば、彼は我慢してくれてたんだと思う。

そんなある日、初めて2人でホテルに泊まることになった。まだ手を繋いだことも、キスをしたこともなかったけど、ひょっとしたらひょっとするかも、と思って新しい下着を買った。これから起こるかもしれないことはあまりにも未知だったけど、心の準備はしていたつもりだった。

夜、夕飯を食べてホテルへ向かう道で初めて手を繋いだ。一歩前進できたような気がして嬉しい半面、ときめきより不安が勝っていた。

部屋でベッドに寝そべっていると、彼が私の布団に入ってきた。彼は今までに見たことのないような顔をしていた。キスしていい?と聞かれて、うん、と答えた。


無理だと思った。
気持ち悪いと思ってしまった。
絡まる舌、身体をなぞる手、私を見つめる瞳、名前を呼ぶ声、好きという言葉、すべてが気持ち悪くて逃げ出したくなった。
でも止められなくて、心を無にして、流れに任せた。
その夜は一睡もできなかった。

翌日は昨夜の記憶の断片がフラッシュバックしては吐き気に襲われた。
早く彼から離れたくて、メイクも中途半端のまま、急いでホテルを出た。
彼と駅で別れてから、なぜか涙が止まらなくて、電車の中でひとりで泣いた。


友達には「そういうのは慣れだよ」と言われた。でもそうじゃなかった。回数を重ねても、キスは気持ち悪いし、触られるのは痛い。
彼のことは好きなのに、私の身体は触れられることを拒絶している。
求められるたびに、自分が女であることに絶望する。

大好きな彼と手を繋ぎたいともキスをしたいともセックスしたいとも思わない。私、人間としておかしいのかな。
願わくば、来世は無性生殖の生き物になりたい。
そんなことを考えながら、今日も心を無にして大好きな彼に抱かれる。


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