あなたみたいにもっと気楽に、薄情に生きたいよ
夜、ギターが鳴る飲み屋。
楽しそうに英語で話す彼に私は一目惚れした。

日本語しか話せない私は話しかける勇気がなく、通路を挟んだ隣で友達といた。

いくつかタイミングが重なって、彼の隣に座った。
彼はカタコトの日本語で話してくれて、私もゆっくりと言葉を紡いだ。
時折触れる膝に、私は胸が高鳴って死ぬかと思った。

その場では連絡先を聞けなかった。緊張してしまって。

でも、どうしてももう一度会いたくて、私は2ヶ月間毎週飲み屋に通った。
また会えたときは、恥ずかしながらこれは運命なんだと思った。

そんな努力の甲斐もあって、私たちは付き合うことになった。


彼は日系アメリカ人で、顔は日本人なのに中身はアメリカ人だった。
日本語は書けず読めないし、話すことも満足じゃない。

でも私はそれでよかった。
お互い足りないことは補えばいいと思っていた。
そして私たちは国、文化、生まれや育ち、言葉も全てが違うから、話し合わなきゃいけないと強く彼に言い聞かせていた。

付き合って1年経つ頃、コロナが広まり出した。
会えない日が続いて、自然と同棲の話が出て私たちは一緒に暮らし始めた。

その頃から、彼は愛情を見せてくれる人だが、思いやりがない人だと感じ始めていた。

ベランダから見える花火に彼を呼ぶが、彼はソファで寝転んで携帯を見るだけだった。
私がどう思うのか、感じるのか、一度も私側に立ってくれたことはなかった。
でも彼は元からそういう人だからと、一種、諦めも抱いていた。


同棲して1年立った頃、彼は転職した。

前は徒歩10分の職場だったが、電車で1時間半に変わった。

彼は大変そうだったが充実してたようだった。

ある日いつもは反応しないキャラ物に反応するようになった。
後にそのキャラ物を好きな女の子が職場にいることが判明した。

そして帰りが深夜近くなり、朝帰りにシャワー、私の作った夕飯を食べなくなり、
スキンシップがなくなって、笑いかけさえしなくなった。

耐えられなくなって彼に浮気しているのか聞くと、4年一緒にいるのにどうして疑うんだと、私を責めた。
そして仕舞いに私への愛は小さくなったと言った。

それは私が毎日一度だけ聞く、今日何時に帰るの?のメールが重かったと。
初めて作った料理を「美味しくなかったらごめんね」の言葉がストレスだったと。
あなたとのセックスがつまらなかったと。

私はいつも彼に歩み寄っていた。

日本語のメニューを私はいつも読んであげていた。
彼の役所関係は私が行った。
マンションの契約、旅行の手配、窓口関係、車も必ず私が運転して、
駐車料金やETCやガソリン代ももらったことない。

全て全て全て、本当に彼の全てを私が代わりに行った。

それは愛してたからだ。
彼が打ち明けた日本では許されない罪の告白だって、私は飲み込んだ。

でも私への愛がもうないなら、もういいや。

別れようと言ったのは、お互いだった。

嫌いになったわけじゃない。
だから私の引っ越しが終わる最後の最後まで笑顔でいたかった。
彼もその言葉に頷いた。


引っ越しの荷造りをするクリスマスの朝、実家から今から行くと連絡したら分かったと返事が来た。

部屋に着くとついさっきまでいたと分かる、コーヒーの強い香りだけを残して彼はいなかった。

私は4階から1階までの階段を、一人で荷物を持って何度も行き来した。

その度に彼が向こうから歩いてくるんじゃないかと外の道を何度も見た。
彼が帰ってこないと気づいたのは昼を過ぎた頃だった。

彼はいつも私から逃げていた。
話し合おうとする私にいつも嫌そうな顔を向けていた。
結婚の話もいつも嫌がり逃げていた。
そして今日、二人が会う最後になる日、彼は私から逃げ出した。

最後はハグして終わりたかった。
楽しかった、幸せだった、愛してたよ。そう言って終わりたかった。

結局最後まで相手を信じて待っていたのは私だけだったんだと泣いた。

軽トラック3台分。うち2台分は私一人で運び、夕方近くには義姉二人が応援に来てくれた。

夕方になっても彼は私のメールを見てくれなかった。
これが4年付き合って、2年一緒に暮らして、愛してるよ、を言ってた男の所業なのかと憎しみすら感じた。


人間不信気味だった私に、彼は男性不信も付け加えた。
男の言う愛って、結局こんなもん。信じた方がバカを見る。

SNSの写真やフォロー、携帯のアルバムや写真を全て消した。

でも彼が私に言った「I love you」の声が入った動画だけ、どうしても消せなかった。

所詮私もこんなもん。
憎んで忘れたいのに、結局泣いてるのは私の方。
ご飯食べれてるかな、支払いちゃんとできてるかな、風邪引いてないかな...と心配して泣いている。

彼が毎日夢に出る。
私はいつ忘れられるのかな。

あなたみたいにもっと気楽に、薄情に生きたいよ。
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