「恋人のフリを辞めて本当の彼女になってくれませんか」
彼と出会ったのは大学1年生のとき。
同じ学部で同じ学科で同じクラス。
グループワークだとか共通の友人ができるとか、よくある理由で話すようになった。
たまに二人で大学近くのサイゼに行って、ドリンクバーとマルゲリータピザで居座る典型的な大学生になった。
酒を飲めるようになってからは、最寄り駅の鳥貴族が私たちの定番になった。
共通の趣味とかはなかったけど、居心地の良さや話しているときの空気感が合っていた。
彼にはインカレサークルで出会ったちょっと可愛い彼女がいた。
彼女に申し訳ないと思いつつ、一番仲の良い女友達を続けていた。
大学3年の夏だった。
大学生活のおよそ2年を捧げた彼女と別れたと本人から聞いた。
彼の彼女はヒステリックなメンヘラだった。
別れてもなお連絡してくるし家に来るしで、彼はうんざりしていた。
この頃私も、バイト先で出会った歳上の大学院生と付き合っていた。
けれどその彼は中々のクズで、女にだらしないくせに、私とは一度も行為をしてくれなかった。
だから、私はその大学院生と、彼は元彼女と、
きちんと別れるための理由として、付き合っているフリを始めた。
そう、これは利害の一致だ。
その場しのぎではバレてしまうかもしれない。だから2ヶ月は恋人のフリをしよう。
2ヶ月経ったらお別れ祝賀会としていつもの鳥貴族へ行こう。
そう約束した。
あっという間の2ヶ月だった。
元カレ・元カノは気がついたら心の中から消えていた。
私はこの偽造カップルの関係が終わってしまうことが寂しくて仕方なかった。
何度か一緒に買い物をしに行って、その度にSNSに上げただけ。
本当の恋人みたいに、キスやハグなんかをしたわけでもないのに。
「偽造カップルを辞めて本当の彼女になってくれませんか」
「この2ヶ月を終わりにしたくない」
だから、まさか彼がハイボール越しにそんなことを言うなんて、思ってもいなかった。
付き合うということがたまらなく嬉しく、そして怖かった私。
「私たちの関係は卒業式まで」
「地元に帰るから君の近くにはいられないし、きっとそれに耐えられなくて君に嫌な思いをさせてしまうから」
そんなことを言ってしまった。
彼は、それでもいいと言ってくれた。どこまでも優しい人。
その日から私たちは本当の恋人になった。
仲の良い友だち期間が長かったから、改まってデートとかそういうのは少なかったように思う。
どちらかの家に泊まって、録り溜めた金曜ロードショーを一つずつ潰して、マリオカートで熱くなって、課題に追われる。
コンビニに行ってアイスを買って食べて公園のブランコで本気になる。
深夜、外にいたくて線路沿いをひたすら歩いてどこまで行けるか試して始発に乗る。
そんなのばかりだった。
セックスはしなかった。
ハグとかキスとかはするけど身体を重ねることはしなかった。
だから私はいつまで経っても処女のままだった。
それでも一緒にいられるだけでよかった。
4年生になってお互い内定を貰えた。
終わりが近づいていた。
2月末日、彼の新居を探しに不動産屋に行った。
カップルで来てるくせに1Rしか見ない私たちは、不思議な2人組に見えただろう。
彼は職場から1駅の南向きの3階の部屋に決めた。
それから卒業式までは彼の新生活に向けての買い出しに付き合うことが増えた。
日用品も食器もインテリアも一緒に見に行く。
それを使う頃には、私たちの関係は終わっているのに。
卒業式前日は私の部屋で過ごした。
処女を捧げる覚悟はしていた。
でも彼はキスしかしなかった。
「私このままだと処女のまま大学生終わっちゃうよ」
「今したら多分明日別れられなくなる」
「俺は好きな人との約束は守りたい」
「それに、思い出になんかしてほしくないから、手は出さない。ずっと燻っててよ」
「また明日ね」
彼はそう言って、笑顔で帰っていった。
卒業式、彼は来なかった。
ギリギリまで待っていたけど最後まで来なかった。
最後の最後で何も伝えられなかった。
ありがとうも、さよならも、元気でねも。
言いたいことは山ほどあったのに会うことすらできなかった。
こんなことなら、始めから一緒にいなければよかった。
恋人のフリなんてせずに、今まで通り友だちのままでいればよかった。
卒業した後、私は入社して2ヶ月で退職した。
こんなことなら彼と同じところにいれば良かったのかもしれない。
後悔したって時間は戻らない。
Googleマップで彼が借りているアパートの3階南向きの1Rを見て、あったかもしれない未来を想像しながらハイボールを流し込んだ。
プレイリストからかかる音楽が恋愛ソングばかりで、なりたくなくてもセンチメンタルになってしまう。
私と彼は、よくあるJ-popの歌詞みたいな綺麗な終わり方はできなかった。
ただの未練ったらしい思いが残っただけだ。
私は彼を引きずったまま、今もずっと処女のまま。
同じ学部で同じ学科で同じクラス。
グループワークだとか共通の友人ができるとか、よくある理由で話すようになった。
たまに二人で大学近くのサイゼに行って、ドリンクバーとマルゲリータピザで居座る典型的な大学生になった。
酒を飲めるようになってからは、最寄り駅の鳥貴族が私たちの定番になった。
共通の趣味とかはなかったけど、居心地の良さや話しているときの空気感が合っていた。
彼にはインカレサークルで出会ったちょっと可愛い彼女がいた。
彼女に申し訳ないと思いつつ、一番仲の良い女友達を続けていた。
大学3年の夏だった。
大学生活のおよそ2年を捧げた彼女と別れたと本人から聞いた。
彼の彼女はヒステリックなメンヘラだった。
別れてもなお連絡してくるし家に来るしで、彼はうんざりしていた。
この頃私も、バイト先で出会った歳上の大学院生と付き合っていた。
けれどその彼は中々のクズで、女にだらしないくせに、私とは一度も行為をしてくれなかった。
だから、私はその大学院生と、彼は元彼女と、
きちんと別れるための理由として、付き合っているフリを始めた。
そう、これは利害の一致だ。
その場しのぎではバレてしまうかもしれない。だから2ヶ月は恋人のフリをしよう。
2ヶ月経ったらお別れ祝賀会としていつもの鳥貴族へ行こう。
そう約束した。
あっという間の2ヶ月だった。
元カレ・元カノは気がついたら心の中から消えていた。
私はこの偽造カップルの関係が終わってしまうことが寂しくて仕方なかった。
何度か一緒に買い物をしに行って、その度にSNSに上げただけ。
本当の恋人みたいに、キスやハグなんかをしたわけでもないのに。
「偽造カップルを辞めて本当の彼女になってくれませんか」
「この2ヶ月を終わりにしたくない」
だから、まさか彼がハイボール越しにそんなことを言うなんて、思ってもいなかった。
付き合うということがたまらなく嬉しく、そして怖かった私。
「私たちの関係は卒業式まで」
「地元に帰るから君の近くにはいられないし、きっとそれに耐えられなくて君に嫌な思いをさせてしまうから」
そんなことを言ってしまった。
彼は、それでもいいと言ってくれた。どこまでも優しい人。
その日から私たちは本当の恋人になった。
仲の良い友だち期間が長かったから、改まってデートとかそういうのは少なかったように思う。
どちらかの家に泊まって、録り溜めた金曜ロードショーを一つずつ潰して、マリオカートで熱くなって、課題に追われる。
コンビニに行ってアイスを買って食べて公園のブランコで本気になる。
深夜、外にいたくて線路沿いをひたすら歩いてどこまで行けるか試して始発に乗る。
そんなのばかりだった。
セックスはしなかった。
ハグとかキスとかはするけど身体を重ねることはしなかった。
だから私はいつまで経っても処女のままだった。
それでも一緒にいられるだけでよかった。
4年生になってお互い内定を貰えた。
終わりが近づいていた。
2月末日、彼の新居を探しに不動産屋に行った。
カップルで来てるくせに1Rしか見ない私たちは、不思議な2人組に見えただろう。
彼は職場から1駅の南向きの3階の部屋に決めた。
それから卒業式までは彼の新生活に向けての買い出しに付き合うことが増えた。
日用品も食器もインテリアも一緒に見に行く。
それを使う頃には、私たちの関係は終わっているのに。
卒業式前日は私の部屋で過ごした。
処女を捧げる覚悟はしていた。
でも彼はキスしかしなかった。
「私このままだと処女のまま大学生終わっちゃうよ」
「今したら多分明日別れられなくなる」
「俺は好きな人との約束は守りたい」
「それに、思い出になんかしてほしくないから、手は出さない。ずっと燻っててよ」
「また明日ね」
彼はそう言って、笑顔で帰っていった。
卒業式、彼は来なかった。
ギリギリまで待っていたけど最後まで来なかった。
最後の最後で何も伝えられなかった。
ありがとうも、さよならも、元気でねも。
言いたいことは山ほどあったのに会うことすらできなかった。
こんなことなら、始めから一緒にいなければよかった。
恋人のフリなんてせずに、今まで通り友だちのままでいればよかった。
卒業した後、私は入社して2ヶ月で退職した。
こんなことなら彼と同じところにいれば良かったのかもしれない。
後悔したって時間は戻らない。
Googleマップで彼が借りているアパートの3階南向きの1Rを見て、あったかもしれない未来を想像しながらハイボールを流し込んだ。
プレイリストからかかる音楽が恋愛ソングばかりで、なりたくなくてもセンチメンタルになってしまう。
私と彼は、よくあるJ-popの歌詞みたいな綺麗な終わり方はできなかった。
ただの未練ったらしい思いが残っただけだ。
私は彼を引きずったまま、今もずっと処女のまま。