手元に永遠に残り続ける、彼女のための婚約指輪
一人で越える夜は、何をしたって時間が余る。
ラジオは壊れかけていてたまに飛ぶし、
飲みかけの缶ビールはもうぬるい。
彼女のお気に入りだったお笑い番組の録画は、残酷に続く。
彼女が大事に育てていたミニトマトはベランダの端で枯れてしまった。

二年前、僕は結婚するつもりだった彼女とお別れをした。
引きずっていても擦り減らないこの気持ちは煩わしい。


三年付き合った。いや四年だ。
大学二年生の夏に始めた居酒屋のバイトで出会って一目惚れ。
初々しいデートを重ねて告白した。

「一生大事にするから付き合ってください!」

緊張したし、本気だった。
思い出す記憶はぼやけていて、幻みたいに思えて仕方がない。


彼女はよく言っていた。
「大事なものは目に見えないんだよ」
本当にそうだった。時間や愛や自信、言葉も。
結婚だって口約束だった。
言葉にしたらいいと思ってた。
でもそうじゃなかったらしい。
婚姻届と指輪を持って、さっさとプロポーズしたらよかった。
何を今更後悔したって遅すぎる。


起き抜けに並んで歯を磨いたことも、
じゃがりこを煙草みたいに咥えて「似合う?」って笑ってたことも、
どの入浴剤を入れるか二人裸で悩んだことも幸せだったんだ。

喧嘩をした翌日は彼女の好きな牛乳プリンを三つ買うことだって、そうだったんだ。

お酒も煙草も映画も僕たちには必要なかった。
セックスだって二人だけのものだった。
いいねのために消費されない優しい時間だけが続いていたし、
これからも永遠に続くと思っていた。


仕事終わり、デートの約束に彼女は来なかった。
いつも五分前には到着する几帳面な彼女が来ることはなかった。

来る途中の交差点で、彼女は車に轢かれた。
救急車は間に合わなかった。
僕が病院に着いたころにはもう遠いところへいってしまっていた。
ただいまと同時に始まる職場の愚痴大会はもう開催されない。

その年の彼女の誕生日にプロポーズする予定だった。
二人が出会ったバイト先の居酒屋の隅の席で。


手元に永遠に残り続ける婚約指輪と婚姻届。
彼女の指では輝くことができなかった7号の指輪。

これは最初で最後のプロポーズであり、未練たらたらのラブレター。
そして彼女との本当のお別れだ。


どうか、時間や愛や自信、言葉を、
どうでもいい相手のために消費しないでほしい。
あなたはあなたのために。

僕は僕のために。
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