彼氏を作って幸せになって、早く私を殺してくれ。
あの子の身体を抱き寄せて、その髪を撫でて、うなじに顔を埋めてみたくて堪らなくなる夜がある。

ベッドの上に産まれたままの姿のあの子を閉じ込めて、その耳に噛み付いたらどんな顔をするんだろう。
そんな浅ましい想像を、しないなんて言ったら嘘になる。
でもそんなの、あの子に言い寄る下劣な男と同等じゃないか。
そのへんの男と一緒にされるなんてとんだ屈辱だ。

あの子は私の”運命のひと”なんだ。
あの子以外の人間と一緒になる人生なんて存在しない。
そんなことを毎日、呪いのように唱えている。

私のあの子に対する思いは、もう“恋心”なんて可愛くは言えないし、“性欲”として片付けるには重すぎた。
年月をかけてひどく拗らせた結果、育ちすぎた感情は私と一体になって、身体を浸食している。


あの子は中学で出会った時からずっと、「恋愛とかよく分かんない」なんて言ってた。
成人してからも、「彼氏いない歴イコール年齢~」なんて笑ってた。
「将来は○○ちゃんが面倒見てくれるもんね」なんてことも言われた。

私はそんなあの子の言葉に勝手に期待して、「私との未来を想像してくれているのかもしれない」と夢想した。
あの子にとっても私は”運命のひと”なのだと、信じていた。

でも私は、あの子が本当は“男女の恋愛”に興味津々だってことも知っていた。
あの子はとんでもないあまのじゃくで、自分に正直になれなくて、周りに嘘をばらまいていただけだ。
私はその事実を見ない振りして、自分の都合のいいところだけを見て過ごしてきた。


そんな罪深い私にも、ついに罰が下された。

「彼氏欲しいんだ」

今まで「恋愛とか興味ないんだよね」と笑っていたあの子が、久しぶりに会ってご飯を食べている時に、なんでもない顔でそう言った。

ああ、やっと自分に素直になったんだな。
私はひどく凪いでいて、そっか、なんて相槌を打っていた。


君は魅力的だから、好いてくれる人はいつだって見つかるよ。
だからいい加減、早く相手を作って幸せになってよ。
運命だったはずの私を置いて、他の人と一緒になって。

そうしてなるべく早く、私を殺してくれ。
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