「俺たちちゃんといい人見つかるといいな」
片田舎の狭いアパートで天井を見つめる。
組み立て式の簡素なベッドで彼は眠っている。
吹き抜ける秋風が、私の身体を冷ましていく。


私は地方の国立大学に通っていた。
比較的真面目で地味な人が多く、私自身もそのような学生だったと思う。
人文学系の学部に所属し、彼とは大学1年の時に所属していたゼミで出会った。


彼は成績優秀、容姿端麗、派手さはなく、真面目だが友達が多かった。
引っ込み思案且つ女子校出身で男性と話すことに私は彼に話しかけられず、
大学1、2年の頃はゼミの事務連絡程度の会話しか交わさなかった。


一度だけ部活中の彼を見かけた。
彼は陸上部に所属していて、長距離の選手だと後で知った。
すらりと伸びた手足。真剣な眼差し。思わず釘付けになってしまった。


彼は私の親友と付き合っていたが、大学3年の秋に別れた。
それから、彼は元カノの親友である私に相談を持ちかけるようになった。


彼女のために少ないバイト代を貯めて買った車。
あげようと思っていたプレゼントのこと。
彼の話を聞くたび胸が痛んだ。


「俺って馬鹿なのかな、馬鹿だよな」


馬鹿だなんて思ったことは一度もなかった。
私は綺麗な横顔を見つめながら首を横に振った。


カフェやレストランすらない辺鄙な場所に大学があったので、
彼の話を聞くときはだいたい彼のアパートだった。


私は男女の関係になることを危惧していなかった。
むしろ期待していたのかもしれない。
自分に真剣に相談してくれる彼に下心を抱いている自分に失望しながら。


ピアスが外れないふりをしてみた。


「ちょっと金具がおかしくなっちゃったかも。外してくれる?」


彼はぎこちない手つきでピアスを外してくれた。
ふたりの距離が近いまま、時間が止まった。


「いや、この距離はだめでしょ」


どちらからと言うわけでもなく私たちは抱きしめあった。
静かな部屋には秒針の音、肌越しに伝わる彼の鼓動。


「俺、したことないんだ。意気地なしだよな」


意気地なしとは思えない程濃厚な口づけで頭がぼうっとした。
陸上部で鍛えられた彼の裸はとても綺麗で、胸がすくんだ。


こんなに素敵人が本当に初めて?と疑心暗鬼だったが、
息遣いや手つきで本当に初めてなのだと悟った。


彼らしい、真面目で丁寧で優しい夜だった。


意気地なしなんかじゃなくて、彼女のことが本当に大事だったから抱けなかったんだ。


「彼はちょっと真面目すぎる、少し退屈かな」
そう言っていた彼女のことを思い出す。



それから私たちは「一緒にレポートをやろう」と言って会うようになった。
コンビニで昼食を買い、食べた後にレポートに取り掛かり、終わった後に体を重ねた。
ひと眠りした後、深夜のコンビニでアイスを買うのがいつものパターンだった。


大学では相変わらず事務的な会話しか交わさなかった。
私たちは共通の知り合いや友人が多かったが、
誰も私たちが男女の関係であることに気付いていなかったと思う。
そのことがまた感情を揺さぶった。


そんな生活が続いていくうちに、彼にドライブに誘われた。
彼女を乗せるはずだった車に乗って。
遠く離れた街のレストランに行った帰り、小高い丘から夜景を見た。
私は少し期待していた。


「なあ」
「なに?」
「俺たちちゃんといい人見つかるといいな」
「そうだね」

「幸せになりたいよなあ」


そう言う彼は私のことなどまるで見ていなかった。
遠くに煌めく街の灯りに誰かを探していたように見えた。
切なげな横顔にキスをしようとしたが、できなかった。


それから私たちは一度も連絡を取り合っていない。
相変わらず大学では事務的な会話だけを交わした。


大学を卒業して4年が経ち、私は結婚した。
風のうわさで、彼が地元町で公務員になったことを知った。
真面目な彼にぴったりだな、と思う。


今でもたまに彼のことを思い出して胸が熱くなる。
彼は今でも私の憧れ。
どうか彼が幸せでありますように。
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