拝啓、彼の未来の彼女様

初めまして、あなたの彼氏の元カノです。

私は矮小な人間なので、あなたが幸せでないことを願ってしまいます。
幸せでないなら私の本望なので、私からは何も言うことはありません。
幸せならば、元カノの戯言と思って暇つぶしに非生産的なぼやきにでも付き合ってやって下さい。


つい先日あなたの彼氏に振られました。
付き合って3年の仲でした。理由はお互い離れた場所に就職し、忙しくなったことによるすれ違いです。
未だに実感が湧かなくて、気持ちの整理をつけるためにまだ見ぬ未来のあなたに向けて筆をとっている次第です。

彼とは大学で出会いました。
第一印象は「怖そうな人」。
寡黙で切れ長の目を見て率直にそう感じました。
あなたもそう思いましたか？

部活が一緒になって話す機会が増えました。
私が人間関係で悩んでいた時、親身に相談に乗ってくれました。
そんな優しい所に惹かれていきました。
悩みが解決してからも試験勉強のことやとりとめのない話をしました。
笑いのツボが一緒だったり、素の自分を出せたり、とても居心地がよかったのです。

付き合うようになったのは話すようになってから2年後くらいのことです。
最初はあの人は恋愛願望がないと言っていましたし。
気長に待った方だと思いませんか？


あの人は私が初めての彼女だったので何もかも初めてでした。
そう、何もかもです。
例えば初めてのキス。
ちょん、と一瞬唇を触れただけで照れて顔を隠していました。可愛いでしょ？

俗な話をしますが、もうセックスはしましたか？
あの人は初めてだったので性行為に抵抗があり、それを少しずつ慣れさせていきました。
初めて繋がれた時、嬉しくて涙が溢れたものです。
あなたがもしすんなり事を成せたのなら、それは私のおかげだと大口叩かせてください。

あの人の寝相は今でも悪いままですか？
寝ている時にいきなり笑い出したり、抱きついてきたり、ベッドから落とされそうになったり。
驚かされることもあるけれど、そんな所も愛おしかったものです。

今でもあるか分からないけれど、トムとジェリーのパーカー、黒い皮のブレスレット、黒いチェックのスニーカー。
実はそれは私がプレゼントしたものです。
見覚えがないというのならばそれはどうもおめでとう。
私にとっては寂しいことだけれども。


私はあなたのことが嫌いです。
これから先あの人と色んな日々を共有していけるあなたが憎たらしいです。
ふとした拍子に出てくる私の痕跡を辿りながら精々幸せにでもなってみてください。

どうかこの手紙の宛先が不明なままであることを願います。