私は所詮、そういう女なのだ。
約3年付き合っていた彼氏と別れた。
本当に好きで、嫌いなところなんてなくて、結婚してずっとずっと一緒に居られると思ってた人だった。


彼氏がいた頃には断っていた朝までの飲み会や、男の人だけの飲み会に呼ばれるようになって、呼ばれるまま行ってはよく飲みに出かけるになった。

例えば2人きりになったり、そういう雰囲気になったりして、知り合ったばかりの人とキスをしてしまうこともあった。

だけどその度に元彼氏の顔がチラついて、
元彼氏とは違う香りや体温や舌遣いに嫌悪感でいっぱいになり、
生理的に受け付けられなくて酔いが覚める。
それ以上先をすることはなかった。

やっぱり彼は特別。
他の人じゃ埋められないことってあるんだ。
こんなにこんなに好きだった人だから、上書きすることなんて出来ない。
もう恋愛出来なかったらどうしよう、なんて本気で思ってた。


別れてから半年経った頃。
いつものように突然誘われた飲み会に、その日が会うのが数回目の2つ年上の先輩がいた。

その人、「ヒロさん」はその2週間前に彼女と別れたらしく、その日は浴びるように酒を飲んでめちゃくちゃに酔っていた。

私は、介抱役にまわった。
「タバコ吸いたい、喫煙所まで連れてって」と言われて喫煙所まで一緒に行ったところでLINEを交換した。
もう朝方だった。

眠い、と言った私に、
「今日さ、解散したら俺ん家来なよ、」
と煙を吐き出しながら言った横顔が、不覚にもエロいなと思った。

元彼氏とは正反対の男の人だった。
背も、タバコ吸うところも、声も、香水の香りも、全部全部ヒロさんは元彼氏と似ても似つかない。

絶対行かないよ、と笑ったら、
ヒロさんは、あそう、残念、と呟いた。


朝7時になって解散して、自分の家に着いてすぐ、電話がなった。

ヒロさんだった。

迎えいくね、とそれだけ言われて、強引だなぁと思ったけれど、私はその後ヒロさんの家に行った。
なんで行ったのか、お酒がそうさせたのか、いまだによく分からない。


一緒の布団に入って、この期に及んで私は
「タバコくさい口とはキスできない」
と無意味すぎる抵抗をした。

「キスしないよ、キスしないからタバコくさくていいじゃん。」
と言いながら、耳を愛撫されて、ヒロさんの唇が首、肩、胸、お腹、とするすると落ちていく。

半年ぶりの経験に、自分も驚くぐらいいやらしい声が出て、もう気づいた時には自分からヒロさんにキスしていた。

やっぱり、元彼氏とは違う香り。舌遣い。

元彼氏は、こんなに荒々しくなくて、もっともっと優しくて、微笑みながら、私の顔を覗き込んで確かめるようにしながらキスしてくれた。
私がキスに溺れているその様を、目を閉じて見えなくなるのが嫌だと言っていた元彼氏のことを思い出して、いままではそれが理性のストッパーになっていたはずなのに、その日は何故だか、ヒロさんのことを受け入れてしまった。

ひざまづいて、ヒロさんのモノを必死に咥える私の頭を押さえつけて、「元カレにもこうやってしてたの?」と耳元で囁かれる。

してたよ、ヒロさんにするよりももっと丁寧に、気持ちを込めて。
私、口でしてるときの元彼氏の感じてる顔を見るのが好きだったの。

口には出さずに心の中で思う。

最後まで、しっかり、当たり前だけど、元彼氏とは全く違う行為だった。

終わったあと、抱き寄せて頭を撫でてくれる優しい手も、どこか痛いところない?と聞いてくれる優しい気遣いもない。

"彼じゃない人"と寝てしまったんだ。

半年も経ってまだ、こんなにあの人のことをひとつひとつ鮮明に覚えていて、思い出してしまうことがとてつもなく哀しかった。

ヒロさんとは、それっきりだった。



まだ付き合っていた頃、元彼氏がある時言っていた言葉を思い出した。


「誰とでも簡単に寝れる女を軽蔑する」


私にとって、どれだけ元彼氏との思い出が美しくて、どれだけ想いが残っていようが、気持ちの入ってないセックスが出来てしまう。
一夜限りの関係を簡単に持ってしまう。


私は所詮、そういう女なのだ。
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