貴方だけに染まるたった1人の人間として生きていく
私は強くない人間だ。
弱いから、誰かに助けてもらわないと生きていけない。
そんな弱さを利用して、色んな男性と体を重ねてきた。

「また呑んでストレス発散しようね」

寝た男性は、口を揃えてこう言う。
その薄っぺらい愛情という名の次の誘いを私は鵜呑みにして、「これでまた会う日まで生きていける」なんて考えて毎日生きていた。


幸せになるとか、夢のまた夢だ。
本当に最愛の人と、汗まみれでベッドの上で抱き合ったり愛の言葉を聞いたりしながら、ドロドロの夜を過ごしてみたい。
そんな女性の裏の本心を私も持っていた。

でもある日、突然叶った。それは突拍子もなく。


ある夜、呑んだ帰りに最寄り駅でお酒で潰れた男性が居た。
周りの目を掻い潜りながら、声をかける。
男性はだいぶ酔っていた。

その人を家まで送る最中で、連絡先を交換する。
「お礼とか要らないから、明日楽になったら連絡して」

それから何度か連絡を交わし、こんなご時世にお誘いの連絡が来た。
それは夜のお誘いではなく、普通にデートの様なお誘い。

男性からこういう連絡が来るのはいつ以来だろう。
単純だから、私は行ってしまう。
普通のデートを重ねるうちに、ホテルで一緒にお酒を呑もうという話の流れになった。

「あぁ、ついに来たな」
なんて急に心が重くなる。

結局は、こうなってしまう。
でも抱かれてる間は、何も考えなくていい。それだけに集中できるから。
体温や、呼吸、動き、視線、言葉。それだけに意識を向けていれば、私を辛い目に合わせる男性なんて居ない。

無になろう。それで今までみたいに、勝手に去ろう。

そんな私の気持ちとは裏腹に、貴方が私を抱く仕草は本当に宝物を抱くようだった。

あぁ、好きだ。
この人の夜の姿が好きなんじゃなくて、全てが愛おしい。
こんな心も満たされる夜はいつ以来だろう。
一つ一つがジワジワと私の体に染みて、貴方に染められていく感覚が伝わる。

夜だけじゃない、昼の私も見た上で「好きだ」と言う貴方に、私も惹かれた。

あの時、好きでもない男に抱かれてる時に見ていた
裏の本心が叶う瞬間に立ち会った。

その夜、私は貴方が眠った横で過去の男の連絡先を消していく。
貴方の吐息を聞きながら、弱い自分が作り出した最悪の思い出を上書きしていく。

もう寂しいなんて思わない。
私は、貴方だけに染まるたった1人の人間として生きていく。
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