高校生の時に付き合っていたひとがいる。
当時私は年上の彼氏がいたけれど、どうしようもなく惹かれて幼馴染の彼と付き合い始めた。

毎日連絡をとりあって、初めて自分から好きって言って、公園でひたすらしゃべって、一度もセックスせずに別れた。

でもそのあと、友達になった。
会って喋って、付き合っていた頃よりずっと盛り上がって、毎回毎回セックスせずに帰った。
友達だから当然。

気付いたら私は結婚を決めて、彼は留学を決めていた。

彼が留学に行く直前、
「結婚することにしたよ。好きだったよ」
と伝えて、伝えた自分が泣いた。

引きとめて欲しかった？
なんて言って欲しかった？

いまさらだけど、自分は嫌な女だと思う。

ここでこの話を終えたら、全然猥談じゃないのでもう少しお付き合いください。

そんなモヤっとしたサヨナラをした私たちは、同窓会で再会した。よくある話だ。夫の車で同窓会にすこしだけ顔を出したら彼がいた。

いや、彼がいるとわかっていたから行ったのだ。

再会して、居酒屋を少し抜け出して、彼に抱き締められて、このひととセックスしたいと思った。
夫が近くの駐車場で待っていたけど、彼ともっといっしょにいたかった。

そのあとまた私たちは友達になって、飲みに行くようになった。お互い会社員になっていて、前よりももっと話は盛り上がった。お酒の効果もあって、終電ぎりぎりまで飲むことが普通になって、彼は私に「時間が溶ける」と言った。

このひととセックスしたいと思った。

そんな友達関係は、意図的に終わった。
終電がなくなることはわかっていて、ひたすらに飲んでいた。彼も私も、明日が休みだということをわかっていた。夫には、友達と飲むと伝えていた。
その日までは本当に友達だったのだから、嘘はついていない、なんて思っていた。

近くのホテルをとって、シャワーを浴びた。
彼の背中がかっこよくて、結婚して太った自分の怠慢を悔やんだ。

それでも、彼とのセックスは最高だった。

真面目の擬人化みたいなひとだと思った。女性向けのAVに入り込んだような、王道丁寧真面目セックスだった。普段ならつまらないと思ったかもしれないが、高校のときから待っていた。結婚しても、大好きだった。最高だった。

これで彼との関係はもう不倫になってしまった。

終わってから「相性も最高だった」と言ってくれた彼が愛おしかった。もう1回、となったけど、意外と緊張していたみたいで疲れてすぐに寝た。

何事もハードルが高いのは1回目で、2回目以降はハードルとも感じなかった。夫は全然気付いていなかったし、彼とは何度も飲んで、何度もホテルに泊まった。たまにはただ同じベッドで寝るだけのこともあった。

海にも行ったし、旅行にも行った。
おいしいものを「おいしいね」っていいながら食べて、手をつないで、彼の運転する車に乗って、たくさん笑った。夫の話はしなかった。

こんな関係は、私の不注意で終わった。

ある日私は彼と飲んでいて、バーで携帯を失くした。そのとき、彼に携帯を借りて助けを求めた相手は夫だった。私は夫に気付かれたくない一心で彼をバーに残して迎えにきた夫の車に乗った。嫌な女だと思う。

それから数回彼とあったけれど、なんとなく夫の顔が浮かぶようになっていた。
きっと彼もそうだったと思う。
彼の携帯からかけた夫の電話番号はすぐに消したし着信拒否設定もした。でもその記憶はきっと消えていないだろう。

それからしばらく連絡もとらなくなった。

会いたくて、酔ったふりをして電話をかけたこともある。「酔ってる？」と連絡がきたけど、それでわかった。もうこの関係は終わりだ、と。

もし彼がまだこの関係を望んでいたら、きっと折り返していたと思う。彼の「酔ってる？」は、私をみじめにしないための、配慮なのだと感じた。

なんでそんなことがわかるかって、彼は幼馴染で元彼で、友達で、不倫相手だったのだから当然である。

あの日携帯を失くさなかったら、いまでも彼は不倫相手だっただろうか。もしかして彼も結婚してダブル不倫をしていただろうか。
いや、彼はそんなことはしないな、なんてたまに思う。

もう彼に連絡することはないけれど、彼の連絡先は消していない。

夫を愛しているけれど、彼のことが好きだったことは事実で、彼とのセックスを忘れることはないだろうと思う。

もう彼のかっこいい背中を見ることはないけれど、幼馴染で元彼で、友達で不倫相手だったひとは一生に一人だけなのだ。

いまはもうどこで何をしているかわからない彼が、幸せであることを祈る。

そして、なにかの偶然で彼にまた会うことがあったときのために、私は今日もカロリーをすこし抑えて軽い運動をする。やはり嫌な女だと思う。