「顔が元カノに似てるから、好き」
今の彼は私の顔が好きらしい。

日本人の平均身長。体重は平均より少し重い。可も不可もない体型の私。

「顔は可愛いね」
「顔が好き」

顔しか好きなところがないともとれるけど、誰かにとっては羨ましい事なのかもしれない。
それを不満に思った事など1度もなかった。あの日までは。


その日は突然訪れた。

その日の昼下がり、突然始めた部屋の掃除。
白い引き出しの2段目。
そこに広がる元カノとの写真の数々。

はじめて見る、元カノの顔。

薄々気づいてはいたけれど、重い女になりたくなくて見ないふりばかりしていた。


目を背けたかった。目の前の現実を受け入れたくなかった。
過去の女が彼と仲睦まじいところを見たくない、とかそんな程度の理由ではない。

元カノの顔が、私にそっくりだったのだ。

元カノに似てるから好きなのか、
こういう顔が好きなのか、
聞くのすらも怖い。


私と付き合う4ヶ月前その彼女と別れたらしい。

顔が似てるから選んでくれたんだ。
私と出会って3日で付き合ったもんね。
分かってたのに気づかないフリしてた。


それから歪み続ける私の心。

すっぴんを見せるのが怖くなった。
「あの子」からかけ離れていくのが怖くなった。

裏垢を使いフォローしてあの子の顔を眺めては自分の顔に貼り付ける。
カラコンはこれ使ってるだとか、目元のメイクはピンクのキラキラだとか馬鹿みたいに意識して。
その顔で彼に会えば可愛い可愛いと沢山褒めてくれる。
嬉しいやら悲しいやら感情が沢山入り交じる。


私は私なんだよ。
あの子はあの子なんだよ。

私を見てよ。

声にならない叫びは今日も1人夜に消える。


部屋で見つけたペアリングは、今も彼の部屋にある。

「捨てて欲しい?」なんて質問、ずるいでしょう。
「どっちでもいいよ」って言った裏の本音は、彼には届かなかったらしい。


もういっそ彼を嫌いになれたら楽なのに。

私だけにくれる優しさや笑顔。
それを思い返す度に言えずにいるこのモヤモヤ。
別れる日はそう遠くはないのかもしれない。


あの子が、今の彼氏と別れたらしい。

明らかに浮ついている彼。
夢にあいつが出てきたと話す彼。

私はもう用無しですか。

皮肉を込めた「良かったね」は、目を見て言う事はできなかったけれど。
肝心なさよならは出来ないまま今夜も彼に抱かれる。

目元にピンクのラメを纏って、つり目を必死に垂れさせるアイラインも、薄く細い眉毛も全部あなたの為。
彼の為に塗った深紅のリップは、今夜も直ぐに消え去りそうだ。

涙は流さない。
私は泣かない。
彼のそばにいられる最後まで綺麗なままで。
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