ガスの切れたライターをまだ捨てれずに持っている
タバコが嫌いだった。
匂いとか、身体に悪いとか、そんな理由じゃなくて。


「またタバコ?いい加減辞めたらいいのに。」
「良いでしょ別に。ちゃんと外で吸ってるんだから。」

そんなこと言って、また少ししたら
部屋の中でも気にせず吸い始めるんでしょ。

とは口にせず、煙が夜空に溶けていくのぼんやりと眺めていた。

彼女がタバコを吸うときは、
決まって何かを忘れようとしているときだってことは知っていた。

その何かが何なのかも知っていた。
でもそれを聞くことだけは一度もしなかった。

「ほら、あんたも一口吸ってみなよ。」

そう言って吸いかけのタバコを渡してくる。
フィルターには薄らと口紅の色が滲んでいた。

タバコが嫌いなのを知っているくせに、
いつもこうやって揶揄ってくる。

そんな所が嫌いだった。
でもそれを許してしまう自分のことは、それ以上に嫌いだった。

「はぁ、分かったよ。口付けて吸えばいいの?」

観念した僕を見て少しだけ驚いた表情をしていたが、
直ぐにニヤリとした笑みを浮かべる。

「そう、ストローでジュース飲むみたいにスーってすればいいよ。」

「これっきりだからね。タバコ、嫌いなんだよ。」

それだけ言って指の間で煙を上げているタバコに口を付け、小さく息を吸い込む。経験したことのない感覚に襲われ、盛大にむせてしまった。

ゴホゴホと咳き込む僕を見て、彼女は楽しそうに笑っていた。
こういう所が狡いんだよ。

「折角の私との間接キスだって言うのに、
そんなにむせるなんて酷いじゃん。」

「酷いのはどっちだよ……。」

今さら間接キス程度で何を言ってるんだろうと思った。

普通のキスも、それ以上のことだって、
何度もしているというのに。

「もう二度と吸わないから。次からは渡してきたらすぐ捨てるからね。」
「そうかそうか。ま、お子ちゃまなあんたにはまだ早かったってことかね。」

気が付くと彼女は新しいタバコに火をつけていた。
やっぱり部屋の中でも吸うんじゃないか。

と思いながらそんな横顔を見つめていた。
タバコの火が消えるまで、ずっと、見つめていた。

タバコは嫌いだった。
でもタバコを吸っている彼女の横顔が大好きだった。


数ヶ月が経った頃、彼女は僕の前から姿を消した。
彼氏が出来たのか、仕事が忙しくなったのか。

理由なんてものは分からないけど、
もう彼女が戻ってくることは無いんだなということだけは分かった。

お互い写真を撮るのは好きじゃなかったし、
メッセージのやり取りだって今日家行ってもいい?
程度のものしか無かった。


だから彼女が居た痕跡なんてほとんど残っていない。

ただ一つ、彼女の忘れていったライターだけが、
机の上にポツンと置かれていた。
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