彼女と別れた。

我ながら最低な彼氏だったと思う。
就活を理由に連絡を疎かにしていたし、それでも文句を言わず待っていてくれた彼女の優しさに甘えきっていた。
彼女から、たまに来るLINEも会いたいの言葉も受け止める余裕がその頃の僕にはなかった。

いつの間にか、彼女がいなくても大丈夫な生活へと変わっていった。

彼女もなんとなく察していたのか、「大事な話がしたい」と久しぶりにLINEをくれた。彼女はこんな時まで優しかった。


「別れよう」


最後くらい会って話をするべきなのに、僕は別れの言葉をLINEで伝えた。
彼女は、ただ、受け止めてくれた。

「支えてあげられなくて、ごめんね。幸せだったよ。楽しかったです。これからも応援してる。」

そのLINEの通知が彼女からの最後のLINEだった。


別れてからは、彼女のことを忘れて就活にだけ集中していた。
このまま、お互い別々の道を歩むんだろうなと考えるくらいで、未練なんてものは一切なかった。

しばらくして就活が終わり、バイトを再開しようかなと考えていた頃、携帯が光った。

1ヶ月前、別れた彼女だ。

「電話できないかな？」

正直、怖かった。
別れた元彼に今さら電話をしてくるなんて。
復縁か、責め立てられるかに決まってる。


しかし、彼女の第一声は
「内定おめでとう！本当に良かった。」
だった。
付き合っていた頃と同じ、かわいらしく、懐かしい声。


思い返せば、彼女は文句を言うような人間ではなく、優しさの塊のような人だった。
だから、ますます不思議に思う。
責め立てられるのではなく、復縁が目的なのかと身構える。


「友達になりたいなって思ってる。」


彼女は、拍子抜けするようなことを言った。
そもそも、僕達は友達の期間なんてほとんどなかった。僕から熱烈にアプローチしたからだ。
友達なんて言われても、今さらなれるかわからない。
それで彼女はいいのか、何度も確認した。

彼女は付き合っていた頃と同じように優しい口調で、大丈夫だよと何回も笑っていた。

久しぶりに彼女と電話をして、気づけば数時間もの間、お互いの近状、就職のこと、将来のこと、付き合っていた頃のこと、たくさん話した。会う約束もした。


夕方になっても蒸し暑さが残る夏の日、久しぶりに彼女と会った。
彼女はとても綺麗になっていた。付き合っていた頃より、ずっと。


「今度ここ行こう！」

彼女は無邪気に笑う。
僕は思い出していた。
彼女の香水の匂い。彼女の笑い方。彼女のしぐさ、癖、何もかも付き合っていた頃のままだった。


「もう、恋愛感情はないから。友達としてよろしくね。」


僕は、元カノと友達になった。
彼女は、これから色々な男性と出会うと思うし、素敵な恋もするのだろう。
彼女は、素敵な人だから、きっと笑顔で溢れた幸せな恋をすると思う。
僕と付き合っていた頃より、ずっと、ずっと幸せな恋をする。
いずれ、綺麗なドレスを着て、大好きな人の隣で微笑む日も来るだろう。

彼女がこれから、誰と付き合おうが、誰と抱き合おうが、僕はただの友達になる。
僕の腕の中で、恥ずかしがって下を向いていた彼女を見ることはもうないのだと寂しくなる。
彼女は僕がこんな気持ちになることを知っていて、友達になりたいと言ったのかと少し恨めしい。


僕はまだ、彼女を好きなのだろうか。
自分の気持ちがわからない。

けれど、ひとつだけ分かることは、
彼女にとって僕は、友達の内の1人だということ。


明日も僕は、元彼女の"友達"としてそばにいる。