わたしが新しい服を見せたいのも、かわいいと言って欲しいのも、全部君じゃない。
土曜日の昼下がり。

出かける予定はないけれど、1人の家で新しいワンピースを着て、お気に入りのマグカップを片手に映画を観ていると、机の上のスマホが震えた。

画面に浮かぶ着信相手の名前をみて、振動が鳴り止むのを見守ると、ふたたび映画に集中した。


映画のなかで苦難を乗り越え結ばれたうつくしい男女をみて、感動よりも虚しさが勝った自分の感情が一層虚しい。
エンドロールが終わるのを待たずにリモコンを手にし、画面を消した。

今日はじめて袖を通したワンピースなんてどうでもよくなり、ベッドに横たわりスマホを触る。

SNSには可愛い子供とおうち時間を過ごす元彼の姿。

今ごろ家族とあたたかいご飯でも食べているのだろうか。
一緒に買ったマグカップ、今もずっと大事に使ってるって知られたら、ドン引きされるかなぁ。
昔の、私といた頃の彼は、さっき観た映画について何を話すだろう?


妄想に更ける私を現実に引き戻すように、再びスマホが震えた。

ここのところ頻繁に電話をかけてくる男の名前に、気は乗らないながらも通話ボタンを押した。

「どうしたの?」
「やっと電話出たね。久しぶりじゃん!何してるかな〜と思って。」
「家で映画みてたよー。」
「今日このあと夜は予定ある?うち来ない?」

元彼と別れてから数年経つのに彼氏もいないんだから、異性からの誘いの連絡には、我ながらもうちょっと気分が乗って欲しい。

電話の男とは、マッチングアプリで出会い、連絡を取り合いって、とんとん拍子に会うことになり、その時の私は舞い上がっていたけれど、
うまく関係は盛り上がらず気がついたらただのセフレになっていた。

「暇だし、行こうかなぁ。」

予定もないとどうせ家にひとりでいるだけだしと、いつも気が向いた時は誘いに乗る。
それなりにちゃんと身なりを整え、億劫にはならない程度の距離の男の家に向かう。


家に着くと、一応、男は冷蔵庫からビールを2本取り出し机に置いた。

何を話したかはあまり覚えていない。
お互いこのあとヤることが分かっていて、そのタイミングを見計らうための会話なんだから当然だ。

その宙に置いた会話がもどかしくて、私から近づきキスをした。


待っていたかのように男は私のキスに応え、慣れた手つきでワンピースを脱がせると、行為がはじまる。

「かわいいね。かわいい。今日の服もめっちゃかわいかった。」

そう優しく言いながら、男は腰を振る。


誰かに抱かれるたびに、私は何度も何度も気付かされる。

わたしが新しい服を見せたいのも、
かわいいと言って欲しいのも、
肌を重ねたいのも、

ぜんぶ君じゃない。


やっぱり私はまだ元彼のことが好きみたいだ。
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