好きだ。12歳の彼も、再会した24歳の彼も、今を生きてる30歳の彼も。
私が6歳の頃、関西の政令指定都市から、四国の片田舎に引越した。
そこで私は一生分の恋に出会う。

最初はただの、小学生の初恋だった。
隣の席になれるよう席替えで祈り、放課後公園で会えたら女友達とはしゃぎ、あの子には別の好きな子がいると知って泣いた。
ただの初恋を、私はずっと引きずっていた。
私が13歳で生まれた街に戻っても、声を忘れても、ずっとずっと好きだった。

求められればそれなりの恋もした。
それでも私の心の特等席にあの子が居続け、別れる度に彼を思い出していた。

モバゲー、GREE、mixi、Twitter…その時々に流行るSNSでこっそりあの子を探した。
Facebookであの子を見つけたのは私が24歳の時だった。
逸る気持ちを抑えて友達申請し、同級生としてのやり取りをmessengerで重ねた。


その2ヶ月後、私たちは同窓会で再会した。
一生会えないと思っていたあの子に会えた私はそれだけで胸がいっぱいだった。

同級生に当時の私の気持ちをあの子にばらされ、優しすぎる皆は私たちを置いて帰ってしまった。家に泊めてくれる約束をしていた女友達もいない。
スマホを触っていたあの子が「いこか」と言う。あの子の後ろを黙ってついていく。あの子は行き先を説明せずタクシーに乗る。

タクシーが着いた先は、街から少し離れたラブホテルだった。


部屋に入り、一服した。どうにも落ち着かない。
他愛もない話もそこそこに、酔っ払っていた私は気がつくと、子供のようにわんわん泣きながらあの子に向かって自分の気持ちを吐き出していた。

そこに居たのは小学生の私だったと思う。

せり上がってくる思いを、一生伝えられないと思っていた好きを、稚拙な言葉で、めちゃくちゃな文脈で、あの子に抱きつき伝え尽くした。
泣き疲れた私をあの子はベッドまで運んでくれて、寝かしつけてくれた。


飲みすぎた次の日は異様に早く目が覚める。
あの子はソファーで寝ていた。
私は起こさないように煙草に火をつけ昨晩のことを反芻した。

何もかも覚えていた。忘れたフリをするべきか。
どんな顔をしておはようといえばいいのか。
いっそお金だけ置いて先に部屋を出てしまおうか。

答えが出ないままお風呂に入った。
鏡に映る私は、昨晩あんなに飲んで泣いたのに腫れも浮腫もなくただただ浮かない顔をしていた。
よかった。最後の私はそこまでブスじゃない。

シャワーから出るとあの子が起きていた。
おはよう、と短い言葉を交わし、あの子もシャワーを浴びに行った。

私はなんだかまた泣きそうだった。どうしてこうも情けない気持ちになるのか、皆目見当もつかない。
どうしてこうなってしまったんだろう。再会できるだけで良かったのに。

「昨日のこと覚えてる?」

シャワーを浴び終わっても眠そうなあの子が、煙草に火をつけながら私に尋ねた。
私は全て覚えていると答え、迷惑をかけたことを謝り続けるしかできなかった。

あの子は吸っていた煙草を消して私をベッドに連れていき、そのまま私を優しく抱きしめ、キスをした。

あの子は、私を、優しく抱いた。
恥ずかしさと緊張から身体がこわばり冷えきっていたのに、あの子の指先が触れたところから私の身体は熱を持った。
あの子のひとつひとつに、私の身体は私の知らない反応をした。
あの子に抱かれるということは、幸せに抱かれ、夢に抱かれ、初恋に抱かれるということだった。


初恋から12年。
大切に大切に心に残していた私の初恋。再会したあの子に、私はまた恋をした。

今、あの日の再会から6年が経ち、私は30歳になった。
今でも私たちは連絡を取っている。
恋人同士になったことも何回かあった。いつも私があの子から離れ、また私から近付いた。
大人の恋と初恋が混ざると、どうもままならないことが多い。

それでも、私は今でもあの子が好きなのだ。
私が好きになった12歳のあの子も、再会した24歳のあの子も、今を生きてる30歳のあの子も。

いつだってあの子はそこにいて、私を拒まない。
1人で癇癪を起こして離れていくわたしを追いかけても来ない。
あの子はあの子の人生を生きている。

もう初恋は叶わなくていい。
あの日私は確かにあの腕に抱かれ、名前を呼ばれ、優しくキスをされた。
私はこの思い出の中で生きていこうと思う。
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