4年経っても、手を出してこない彼氏のことがけっこう好きだ。
「彼氏ともう一ヶ月もレスなんだよねぇー」
と重い吐息をついた先輩を慰めようと、
「大丈夫ですよ! 私たちなんてまだセックスしてすらいませんから!」 と返したら、
「付き合って4年も経つのにあんたたちはいったい何をしてるの?」 とギョッとされた。
そこから先輩は野次馬へと豹変し、「4年間セックスなしでどうやって付き合ってるの?彼はエロに関心ないの?ていうかセックスしないなら、デートはいつも何してるの?」 と矢継ぎ早に質問を重ねてきた。
恋人という関係性でありながらもいまだに処女・童貞を保っている私たちの話をすると、たいていの人が同じ反応を見せる。
それが普通の反応なのかと納得してはいるものの、私は交際開始から一ヶ月経っても、半年経っても、4年経っても、手を出してこない彼氏のことがけっこう好きだ。
たしかに私も、彼氏も、セックスを知らない。
セックス経験者たちが口を揃えて言うように、きっとセックスは素晴らしいものではあるのだろう。
しかしながら、恋人間において必要不可欠な愛情表現だと断じることについては、いささか違和感がある。
この度は私たちが肉体関係において「純」な交際を始めるに至った経緯と、セックスをせずとも満たされている性生活を書き記しておこうと思う。
私たちが出会ったのは、語学サークルの新歓飲み会だった。
同い年とは思えない落ち着いた物腰と、飲みの席にもかかわらずかたくなに烏龍茶を啜っている姿が印象的だった。
真面目そうなのに飄々と面白いことを言うのが可笑しくて、いつしかほとんど毎日部室でしゃべる仲になり、その秋に「好きです。付き合ってください」という彼の告白を快諾した。
これまで好きな人ができたことがないという彼の、初めての彼女になれたことが嬉しかった。
晴れて両思いになったその日。
告白をしたあとの時間を持て余してしまったのか彼は「なにかしたいことある?」と聞いてきた。
私は「ハグがしたいな」と答え、私たちは両手を広げて近づき、ギュッと抱き合った。
「嬉しいなあ、好きだよ。かわいいよ」と照れずに言ってくれる彼が、とても愛おしかった。 デートに行った時は「手汗がやばいね」と恥ずかしがりながらも、手を離すことなく歩き続けた。
ハグと手つなぎだけで、2ヶ月が経とうとしていた。
私の話を聞いていた友人が「あなたたちまだヤッてないの?」と怪訝そうに言った。交際2ヶ月でセックスをしないのは遅い分類に入るのかと思ったが、クリスマスになればまた少し進展があるだろうと私はほのかに期待していた。
そして迎えたクリスマス。
彼の家でちょっと豪華なご飯を作り、大学の近くのお菓子屋へケーキを買いに行き、プレゼントを交換して、ちょっとハグした。その夜、二人でシングルベッドに入った。
私は実は下着を新調し、顔や脛の毛を剃っていた。彼は準備万端な私の頭を少しなでて、「今日もありがとう。おやすみなさい」と優しく言って、目を閉じた。
おいおいおいおい。気持ちが高ぶっているのは私だけかい。
ツルツルに整えた自分の身体が羞恥に燃えて、衝動的に私は目の前の彼の唇に自分の唇を重ねた。呑気に目を閉じていた彼は一瞬目を丸くしたものの、すぐにキスに応じた。
繰り返されるキスの中、これはもしかしたら、今晩コトがなされるかもしれないぞ。と酸欠の頭で考えた。が、結局私たちはその晩3時間キスして、ヘトヘトになって、寝た。
ハグと手つなぎと、キス。 それだけで半年が過ぎた。
このままでもいい気もするし、いけないような気もする。
漠然とした不安と危機感を持っていた私は、一人夜中にパソコンでAVを観てフェラチオの知識を学んだ。
ある日、彼の家でキスをし不意に目があった瞬間、チャンスだと思った。
ノリと勢いで彼のパンツを下ろす。
「急にどうしたの…?」と気乗りしない様子ながら素直にパンツを脱いでくれた彼のブツにそっと口づけ、予習したとおりに口を動かす。
そっと彼を窺うと、彼は普段と寸分変わらない冷静な面構えで私のことを見下ろしていた。こんなに真顔で、「で?」みたいな顔をされたときの対応は、私は知らない。
ていうかいつまで舐めていればいいんだろう。
一度大きくなったはずのブツは口の中で徐々に小さく柔らかくなっていった。
私の焦りを汲み取ったらしい彼は 「あんたは何がしたいの。俺をどうしたいの」 と静かに聞いた。
「急にごめんね。でも、私はあなたともう少し先に進みたいの。あなたに気持ちよくなってほしいし、セックスもしたいの」
私の答えを聞いた彼は少し驚いた顔をして、私の手を握ってゆっくりと話した。
「俺は結婚するまではしたくないな。万が一コンドームが破れて子どもができてしまったら、俺たちは大学を辞めたり、就職を諦めたりしなくちゃいけないかもしれない。そういうリスクが0%じゃないかぎり、そういう行為はしないに越したことはないと思う」
そんなに深く考えてくれていたことに胸が熱くなった一方で、ED疑惑も気になっていた。
「性欲自体はあるの? 私に対して、したいって思ってくれてる?」
「性欲自体はあるけれど、コントロールできているから大丈夫」
彼の言葉に安心していたら、彼は「そうか……あんたは俺とセックスしたいと思ってくれてるんやねえ」としみじみと言った。
彼に復唱されると無性に恥ずかしくて、もういいから寝よう。と布団をかぶったのだが、「よくないよ。あんたの性欲はどうなるねん」と彼は布団をまくって足元に投げた。
なんだかひどく、胸騒ぎがした。
それからの数時間、どこか嗜虐的で楽しそうな彼から放たれる強烈な色気にくらくらした。羞恥と気持ちよさとで、泣くかと思った。
この日を境に、彼は時折、前戯だけで私を極限まで追い詰めて喜ぶようになった。
身体の熱を持て余した私がもうひと思いに挿れてくれ、と懇願することもあるが、「それは言わないお約束でしょう」と軽くいなされている。
結婚するまで、私たちはセックスをしない。
そのルールはあいかわらず。
そんな私たちを 「相性が悪かったらどうするの?」 と心配する友人もいる。
たしかに私もそれは少し不安だ。
しかし、私たちはお互いが初体験なのだ。
相性を判断できるほど経験がないから、きっと大丈夫だろう。これまでも、そしてこれから先も、彼は、私は、おそらくお互いしか知らないままで生きていくのだろう。
結婚するまで未知数の、彼とのセックス。予想がつかない、私たちの未来。
今はまだ、私たちはセックスを知らない。
と重い吐息をついた先輩を慰めようと、
「大丈夫ですよ! 私たちなんてまだセックスしてすらいませんから!」 と返したら、
「付き合って4年も経つのにあんたたちはいったい何をしてるの?」 とギョッとされた。
そこから先輩は野次馬へと豹変し、「4年間セックスなしでどうやって付き合ってるの?彼はエロに関心ないの?ていうかセックスしないなら、デートはいつも何してるの?」 と矢継ぎ早に質問を重ねてきた。
恋人という関係性でありながらもいまだに処女・童貞を保っている私たちの話をすると、たいていの人が同じ反応を見せる。
それが普通の反応なのかと納得してはいるものの、私は交際開始から一ヶ月経っても、半年経っても、4年経っても、手を出してこない彼氏のことがけっこう好きだ。
たしかに私も、彼氏も、セックスを知らない。
セックス経験者たちが口を揃えて言うように、きっとセックスは素晴らしいものではあるのだろう。
しかしながら、恋人間において必要不可欠な愛情表現だと断じることについては、いささか違和感がある。
この度は私たちが肉体関係において「純」な交際を始めるに至った経緯と、セックスをせずとも満たされている性生活を書き記しておこうと思う。
私たちが出会ったのは、語学サークルの新歓飲み会だった。
同い年とは思えない落ち着いた物腰と、飲みの席にもかかわらずかたくなに烏龍茶を啜っている姿が印象的だった。
真面目そうなのに飄々と面白いことを言うのが可笑しくて、いつしかほとんど毎日部室でしゃべる仲になり、その秋に「好きです。付き合ってください」という彼の告白を快諾した。
これまで好きな人ができたことがないという彼の、初めての彼女になれたことが嬉しかった。
晴れて両思いになったその日。
告白をしたあとの時間を持て余してしまったのか彼は「なにかしたいことある?」と聞いてきた。
私は「ハグがしたいな」と答え、私たちは両手を広げて近づき、ギュッと抱き合った。
「嬉しいなあ、好きだよ。かわいいよ」と照れずに言ってくれる彼が、とても愛おしかった。 デートに行った時は「手汗がやばいね」と恥ずかしがりながらも、手を離すことなく歩き続けた。
ハグと手つなぎだけで、2ヶ月が経とうとしていた。
私の話を聞いていた友人が「あなたたちまだヤッてないの?」と怪訝そうに言った。交際2ヶ月でセックスをしないのは遅い分類に入るのかと思ったが、クリスマスになればまた少し進展があるだろうと私はほのかに期待していた。
そして迎えたクリスマス。
彼の家でちょっと豪華なご飯を作り、大学の近くのお菓子屋へケーキを買いに行き、プレゼントを交換して、ちょっとハグした。その夜、二人でシングルベッドに入った。
私は実は下着を新調し、顔や脛の毛を剃っていた。彼は準備万端な私の頭を少しなでて、「今日もありがとう。おやすみなさい」と優しく言って、目を閉じた。
おいおいおいおい。気持ちが高ぶっているのは私だけかい。
ツルツルに整えた自分の身体が羞恥に燃えて、衝動的に私は目の前の彼の唇に自分の唇を重ねた。呑気に目を閉じていた彼は一瞬目を丸くしたものの、すぐにキスに応じた。
繰り返されるキスの中、これはもしかしたら、今晩コトがなされるかもしれないぞ。と酸欠の頭で考えた。が、結局私たちはその晩3時間キスして、ヘトヘトになって、寝た。
ハグと手つなぎと、キス。 それだけで半年が過ぎた。
このままでもいい気もするし、いけないような気もする。
漠然とした不安と危機感を持っていた私は、一人夜中にパソコンでAVを観てフェラチオの知識を学んだ。
ある日、彼の家でキスをし不意に目があった瞬間、チャンスだと思った。
ノリと勢いで彼のパンツを下ろす。
「急にどうしたの…?」と気乗りしない様子ながら素直にパンツを脱いでくれた彼のブツにそっと口づけ、予習したとおりに口を動かす。
そっと彼を窺うと、彼は普段と寸分変わらない冷静な面構えで私のことを見下ろしていた。こんなに真顔で、「で?」みたいな顔をされたときの対応は、私は知らない。
ていうかいつまで舐めていればいいんだろう。
一度大きくなったはずのブツは口の中で徐々に小さく柔らかくなっていった。
私の焦りを汲み取ったらしい彼は 「あんたは何がしたいの。俺をどうしたいの」 と静かに聞いた。
「急にごめんね。でも、私はあなたともう少し先に進みたいの。あなたに気持ちよくなってほしいし、セックスもしたいの」
私の答えを聞いた彼は少し驚いた顔をして、私の手を握ってゆっくりと話した。
「俺は結婚するまではしたくないな。万が一コンドームが破れて子どもができてしまったら、俺たちは大学を辞めたり、就職を諦めたりしなくちゃいけないかもしれない。そういうリスクが0%じゃないかぎり、そういう行為はしないに越したことはないと思う」
そんなに深く考えてくれていたことに胸が熱くなった一方で、ED疑惑も気になっていた。
「性欲自体はあるの? 私に対して、したいって思ってくれてる?」
「性欲自体はあるけれど、コントロールできているから大丈夫」
彼の言葉に安心していたら、彼は「そうか……あんたは俺とセックスしたいと思ってくれてるんやねえ」としみじみと言った。
彼に復唱されると無性に恥ずかしくて、もういいから寝よう。と布団をかぶったのだが、「よくないよ。あんたの性欲はどうなるねん」と彼は布団をまくって足元に投げた。
なんだかひどく、胸騒ぎがした。
それからの数時間、どこか嗜虐的で楽しそうな彼から放たれる強烈な色気にくらくらした。羞恥と気持ちよさとで、泣くかと思った。
この日を境に、彼は時折、前戯だけで私を極限まで追い詰めて喜ぶようになった。
身体の熱を持て余した私がもうひと思いに挿れてくれ、と懇願することもあるが、「それは言わないお約束でしょう」と軽くいなされている。
結婚するまで、私たちはセックスをしない。
そのルールはあいかわらず。
そんな私たちを 「相性が悪かったらどうするの?」 と心配する友人もいる。
たしかに私もそれは少し不安だ。
しかし、私たちはお互いが初体験なのだ。
相性を判断できるほど経験がないから、きっと大丈夫だろう。これまでも、そしてこれから先も、彼は、私は、おそらくお互いしか知らないままで生きていくのだろう。
結婚するまで未知数の、彼とのセックス。予想がつかない、私たちの未来。
今はまだ、私たちはセックスを知らない。