「大人」の彼女は、嬉しそうな「女の子」の顔をして試着室から出てきた
子供の頃は、20歳を超えたら大人になれるものだと思っていた。

20歳という基準が、単なる法的な成人の定義に過ぎないのだと気づいたのは、実際に自分がその年齢になってから。

彼女と出会った時の僕も、年甲斐もなく自分勝手に感情的になり、自己嫌悪に陥っていた。
子供の頃に思い描いた年齢になっても、僕はまるで思春期の様に心が惑ってばかりだ。


四十にして惑わず。
論語の言葉。

僕が惹かれたその人は、
一回り以上歳上の女性だった。

若々しくて小柄だが、幼さを全く感じない。
大人っぽくて綺麗な人。40歳。
甲斐甲斐しく働きながら、女手一つで子供を育てる彼女は、論語の言葉の通り「不惑」の女性のように思えた。

思春期のロスタイムを惰性で過ごしている僕が彼女を好きになったのも、きっと大人の女性への憧れのようなものもある。
ダメ元でデートに誘ったその返事は「良いの?こんなおばちゃんで?」という、戸惑いこそあるものの好意的な返事だった。


街に出かけた。
二人で歩いていても、彼女はそれまでのイメージと違わず、「大人」で「母親」の顔をしている。

所帯じみた会話をしながら、食事をし、行く宛も無くぶらつく。
何となく、「それが大人なんだ」と心の中で思っていた。
ある意味、最初から覚悟をしていた、諦めに近い感情。

服屋の前に差し掛かった。
白いブラウスと、ロングスカートが目に止まる。
僕は彼女に「着てみなよ」と提案してみた。

「小柄だしロングスカートは似合わないよ」と言う彼女の手を取り、試着室に押し込んだ。

何故かは分からない。
でも、絶対に似合う確信があった。

試着室から出てきた彼女は、少し照れくさそうな、でも嬉しそうな「女の子」の顔をしていた。
予想以上に似合っている。
僕は、この時初めて彼女を「綺麗」ではなく「可愛い」と思った。


服屋を出た。

入る前と同じ服装。変わったのは彼女の顔。

心地の良い沈黙。

思わず手を繋いだ。

彼女は少し驚いた様な顔をしてから、照れくさそうに口を開いた。


「親子に見えるのかな?若いツバメに見えるのかな?まっ、どっちでもいっか!」

気がつけば、僕らはタクシーを拾ってホテルに向かっていた。


事後、ベッドで裸で抱き合いながら彼女が口を開く。
「背が低いからロングスカートなんて似合うと思ってなかったな。」

それから、たくさん話をした。
彼女自身、惑っている。

でも、生きてるんだ。

「自分のイメージを覆すような声に耳を傾けるのも大事なんだね。自分を縛る鎖が少し解けた気がする。」

穏やかな声で、彼女はそう言った。


四十にして惑わず

単に「何事にも惑わされない」というだけではなく「道理も良く知り、枠にとらわれない自由な発想で物事を考えること」というのが、孔子の真意だそうだ。

そう言えば、その日の別れ際に彼女は言った。
「ウィンドウショッピング、良い前戯だったね。」

なるほど、道理に叶っていて自由な発想だ。


40になった自分を想像できない。
相も変わらず思い通りに成長できず、フラストレーションをため続けている予感はする。

でも、それでも前に進める希望があるならいいか。
そう思った。
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