まだ吸えるはずなのに彼女はタバコの火を消した
彼女はタバコを吸っていた。
iQOSじゃなく紙タバコ。

「身体に悪いからやめなって言う奴が嫌い」

呑み会の場で場をしらけさせる一言をはなった。
彼女に視線が向く中。

「お金の無駄だからやめな」

僕はそう言っていた。
口が勝手に開いていた。

全員の視線がこちらに向く中、彼女は咳き込んで大笑いしていた。それから仲が良くなりお互いかまいあうようになった。
彼女を馬鹿にしたり、僕を馬鹿にしてくる。
こんな、関係が楽しかった。

好意はあった。最初から。男として見られてないのが悔しくて、彼女の特別になりたかった。
彼氏じゃなくてもいい、僕を、ちゃんと見て欲しかった。

それから遊ぶことも多くなり、2人で旅行に行くことになった。
一度も行為はしてない。キスもしてない。
それでも呑みのノリで行くことになった。
そういうことにもなるよな、とか、色んな期待と楽しみがあり準備はすぐに終わった。


旅行に行く日。
彼女が考えたいとプランを立ててくれていたので完全にのっかり、されるがままに色々な所へ行った。

歩き疲れ、夕食を待つ時間。
畳の上で2人で寝転んでいた。
タバコに火をつけた彼女。
窓辺からの景色と好きな人とタバコの煙。とても綺麗だった。

馬鹿な事してはしゃぎまくっていた彼女が、
タバコに火をつけると静かになる姿が好きだった。

見ているのに気づいて彼女が言う。
「黙るなよ。恥ずかしくなる」
照れ隠しに返答した。
「そっちが黙るからだろ?」

なぜか、彼女は本当に黙ってしまった。
こちらを見つめたまま。
教えてもらった吸えるところまでのタバコの線。
全然まだ吸えるはずなのに彼女は火を消した。

「本当に今日はありがとう」

そういって彼女はキスしてきた。
畳の上で絡まる舌。部屋にノック音が響いたが無視して続けた。お互いお腹も空いていたのでたまにお腹がなる。そんな事にも触れないくらいお互い真剣に真剣に体を重ね合わせた。

終わってまたすぐ火をつける彼女。

「吸ってみたら?」
そんな言葉につられて吸ってみた。
もちろん咳き込む。

それを横目に彼女は笑って、そして泣いた。

どうしてかわからない。女の子は難しい、なんで泣くのだろう。なにかダメだったのか?傷つけたのか?そんな心配は口に出さない。優しく、優しく包み込んだ。

「前付き合って彼氏と来たかったとこ。」
「今日来たところ全部。」
「約束してたの、一緒に美味しいタバコ吸おうって。」

涙と共に吐き出してくれた魂胆。
悲しくて、悔しくて、虚しくて、それでも、彼女を優しく包んだ。左手に持ったタバコはすでに線まで到達していて、煙と共に全てが消え去っていた。


旅行から帰るといつも通りの日常。

普段通りじゃないとこと言えば、
彼女は前の彼氏とまた連絡を取りはじめたこと。

そして旅行に行ったこと。
美味しかったタバコの感想も聞いた。

あんなに綺麗だったタバコの煙も、あなたの好きなタバコの銘柄も、あなたと行った旅行先も全部。

忘れきれない儚い夢物語。
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