とくべつ陽キャでも隠キャでもない私達の話
高校生になって2番目にできた彼氏は、占いなんて信じないタイプだった。
「俺は、占いなんてなんの根拠もないから信じないんだよ。胡散臭いし。」
「なんでも信じてるわけじゃないけどさぁ、お守りみたいなもんじゃない?」
「神頼みはセンター試験だけで十分。目に見えないものを信じる童心はもうないよね。」
「キモッ。自分だってガキのくせに大人ぶるなよ〜」
彼のどこか冷めてて大人ぶった発言は、その田舎臭い普通の学ランで全部ぶち壊しだ。
とくべつ陽キャでも隠キャでもない私達は、学校内ではあまり話さないのが暗黙のルールだった。
調子に乗った奴らだと思われたくないし、周りから冷やかされるのも嫌だったから。
グラウンドで走る姿を遠くから目で追ったり、ルーズリーフを分けてあげるくらいのあっさりした関係だ。学校の風景に溶け込みつつ目があってニヤッとするだけ。
そんな些細で進展のない「特別な」やりとりがたまらなく好きだった。
そんな日常がダラダラ続いて、いつの間にかクソみたいに暑い夏休みになった。
お金がない高校生の田舎の夏休みなんて、友達の家かカラオケか市民プールくらいしか遊ぶ場所なくてつまらなかった。
夏休み中も私達は「勉強」という口実で毎日のように会っていた。
お互い家には常に家族の誰かがいて、照れくさくて呼べなかったから、私達の「いつもの場所」は近所の大学の図書館。彼の私服姿は、周りの生徒も先生も知らない彼を知ってしまったように思えて、すごく興奮した。
窓からはじっとりした土の匂いのする湿った空気が流れてきた。ボロいママチャリが行き交っている。
もう日が沈みそうだ。使い込んだ教科書をパンパンなリュックの中に押し込んだ。
帰り際、手を繋ぎながら彼はボソッと呟いた。
「あのさ・・・明日は駅前で待ち合わせしよう」
「なんで?」
「おねがい」
彼はさりげなさを装っているが、とても緊張しているのが伝わってきた。ちょっと可愛かった。
私はそれに気づかないフリをした。
「・・・クーラーある?」
「あるよ」
「じゃあ行こっかな」
翌日、駅前に着くといつもより大人っぽい服装(大学生に見える)の彼が待っていた。
彼に連れられバスに乗って、高速道路のインター付近で下車した。大通りを少し歩くと、そこは昼下がりのラブホテル街だった。
炎天下のせいなのかコイツのせいなのか手汗が止まらない。未知の世界に2人とも動揺していた。
ギラギラのホログラムで飾られた扉からホテルに入ると、大理石の壁に部屋の写真がずらりと並んだパネルが光っていた。
田舎のラブホのエントランスには、入浴剤やフェイスパックが置いてあって自由に部屋に持っていける事に感動した。
未成年だから入り口ですぐ止められるんじゃないかと2人ともドキドキしていたが、あっさり部屋に入れてしまった。
ふと「年齢を偽って援助交際をしていた女子高生のニュース」が脳裏をよぎった。高校生も大学生も、私服じゃ区別つかないんだろうな。
ラブホテルの部屋は、普通のホテルと違ってお城みたいだった。その豪華さに動揺した私は、緊張して固まってしまった。
「・・・シャワー浴びてくれば?」
「うん」
どうすればいいのかわからず、顔から髪までしっかり洗って、着てきた服を着てベッドの隅に座っていた私を、シャワーを済ませた彼が抱き寄せた。
彼の骨張った肩に腕を回すと、私とおんなじボディーソープの香りがした。
彼から抱きしめられたのは、これが初めてだった。
ディープキス。
2人とも初めてだったから下手くそだっただろうな、色んな感情が込み上がってきて泣きそうになっていた。
保健体育の授業で出てきた「コンドーム」も初めて見せてもらった。
父親以外の男の人の裸を見るのは初めてだったから目のやり場に困ってしまったけど、彼も同じようだった。
普通の高校生から急に大人になってしまうような気がして怖かったけど、いま目の前の彼が好きで好きでたまらなくて、もっと深く愛して欲しかった。
身体が結ばれて、大人になったら結婚して、子供ができて、生涯幸せに暮らしてしまうんじゃないかと本気で思った。
見様見真似でセックスして、触れ合いや腰付きはぎこちない。もっとAVをみて予習しておくべきだったと後悔した。妊娠してたらどうしよう?ゴム付けてたけど避妊は100%じゃないって保健体育で習ったけど‥‥
でも彼が好きだったから、とても幸せな初体験だった。
それからベッドの上でお菓子を食べたり、テレビを見たりして笑い合った。
また普通の高校生カップルに戻れたような気がした。
その後、別々の大学へ進学するため上京した私達は、早々に大学デビューして、すれ違いからあっさり別れてしまった。
初体験の日、本気で彼と結婚するんだなと思っていた自分が恥ずかしい反面、幼くて愛おしい。
胸に顔を埋めて首の骨を折ってやりたい。
つまらない大人になった私。
彼は元気にしているのかな。
占いなんかに頼らないけど、またいつか会えたらいいな。
「俺は、占いなんてなんの根拠もないから信じないんだよ。胡散臭いし。」
「なんでも信じてるわけじゃないけどさぁ、お守りみたいなもんじゃない?」
「神頼みはセンター試験だけで十分。目に見えないものを信じる童心はもうないよね。」
「キモッ。自分だってガキのくせに大人ぶるなよ〜」
彼のどこか冷めてて大人ぶった発言は、その田舎臭い普通の学ランで全部ぶち壊しだ。
とくべつ陽キャでも隠キャでもない私達は、学校内ではあまり話さないのが暗黙のルールだった。
調子に乗った奴らだと思われたくないし、周りから冷やかされるのも嫌だったから。
グラウンドで走る姿を遠くから目で追ったり、ルーズリーフを分けてあげるくらいのあっさりした関係だ。学校の風景に溶け込みつつ目があってニヤッとするだけ。
そんな些細で進展のない「特別な」やりとりがたまらなく好きだった。
そんな日常がダラダラ続いて、いつの間にかクソみたいに暑い夏休みになった。
お金がない高校生の田舎の夏休みなんて、友達の家かカラオケか市民プールくらいしか遊ぶ場所なくてつまらなかった。
夏休み中も私達は「勉強」という口実で毎日のように会っていた。
お互い家には常に家族の誰かがいて、照れくさくて呼べなかったから、私達の「いつもの場所」は近所の大学の図書館。彼の私服姿は、周りの生徒も先生も知らない彼を知ってしまったように思えて、すごく興奮した。
窓からはじっとりした土の匂いのする湿った空気が流れてきた。ボロいママチャリが行き交っている。
もう日が沈みそうだ。使い込んだ教科書をパンパンなリュックの中に押し込んだ。
帰り際、手を繋ぎながら彼はボソッと呟いた。
「あのさ・・・明日は駅前で待ち合わせしよう」
「なんで?」
「おねがい」
彼はさりげなさを装っているが、とても緊張しているのが伝わってきた。ちょっと可愛かった。
私はそれに気づかないフリをした。
「・・・クーラーある?」
「あるよ」
「じゃあ行こっかな」
翌日、駅前に着くといつもより大人っぽい服装(大学生に見える)の彼が待っていた。
彼に連れられバスに乗って、高速道路のインター付近で下車した。大通りを少し歩くと、そこは昼下がりのラブホテル街だった。
炎天下のせいなのかコイツのせいなのか手汗が止まらない。未知の世界に2人とも動揺していた。
ギラギラのホログラムで飾られた扉からホテルに入ると、大理石の壁に部屋の写真がずらりと並んだパネルが光っていた。
田舎のラブホのエントランスには、入浴剤やフェイスパックが置いてあって自由に部屋に持っていける事に感動した。
未成年だから入り口ですぐ止められるんじゃないかと2人ともドキドキしていたが、あっさり部屋に入れてしまった。
ふと「年齢を偽って援助交際をしていた女子高生のニュース」が脳裏をよぎった。高校生も大学生も、私服じゃ区別つかないんだろうな。
ラブホテルの部屋は、普通のホテルと違ってお城みたいだった。その豪華さに動揺した私は、緊張して固まってしまった。
「・・・シャワー浴びてくれば?」
「うん」
どうすればいいのかわからず、顔から髪までしっかり洗って、着てきた服を着てベッドの隅に座っていた私を、シャワーを済ませた彼が抱き寄せた。
彼の骨張った肩に腕を回すと、私とおんなじボディーソープの香りがした。
彼から抱きしめられたのは、これが初めてだった。
ディープキス。
2人とも初めてだったから下手くそだっただろうな、色んな感情が込み上がってきて泣きそうになっていた。
保健体育の授業で出てきた「コンドーム」も初めて見せてもらった。
父親以外の男の人の裸を見るのは初めてだったから目のやり場に困ってしまったけど、彼も同じようだった。
普通の高校生から急に大人になってしまうような気がして怖かったけど、いま目の前の彼が好きで好きでたまらなくて、もっと深く愛して欲しかった。
身体が結ばれて、大人になったら結婚して、子供ができて、生涯幸せに暮らしてしまうんじゃないかと本気で思った。
見様見真似でセックスして、触れ合いや腰付きはぎこちない。もっとAVをみて予習しておくべきだったと後悔した。妊娠してたらどうしよう?ゴム付けてたけど避妊は100%じゃないって保健体育で習ったけど‥‥
でも彼が好きだったから、とても幸せな初体験だった。
それからベッドの上でお菓子を食べたり、テレビを見たりして笑い合った。
また普通の高校生カップルに戻れたような気がした。
その後、別々の大学へ進学するため上京した私達は、早々に大学デビューして、すれ違いからあっさり別れてしまった。
初体験の日、本気で彼と結婚するんだなと思っていた自分が恥ずかしい反面、幼くて愛おしい。
胸に顔を埋めて首の骨を折ってやりたい。
つまらない大人になった私。
彼は元気にしているのかな。
占いなんかに頼らないけど、またいつか会えたらいいな。