午前8時に約束をして、ラブホテルに行く
「横浜西口のビルが崩壊したんだって」
仕事終わりに見た彼氏からのLINEでニュースを知る。
どの辺か気になって検索をすると、崩壊したビルの写真が出てきた。
そこは、大好きだった元彼に処女を捧げたラブホテルだった。
あの時私は高校三年生で、彼も同い年だった。彼とは面白いくらい性格や趣味が合い、お互い強く惹かれあっていた。それはもう今まで馬鹿にしてきたような恥ずかしいラブソングの歌詞さえも私たちのためにあるかのような気がしてしまう程で、会える日が待ち遠しくて仕方なかった。
とにかく私は彼を心から愛していたし、彼もまた私のことを心から愛していた。
付き合って1カ月を迎える頃、彼は少し恥ずかしそうに頬を緩めながら「そろそろしてもいい?」と聞いてきた。
まだ処女だったけれど、彼に全てを捧げてもいいと本気で思っていた私は少し悩んだあと彼のお願いを受け入れることに決めた。
と言ってもまだ高校生だった私たちはお酒の勢いで、なんてことも出来ずにデートの約束をするようにホテルに行くことを約束した。
私たちは午前8時に約束をしてラブホテルに行った。
「夜遅くまではいられないから、だったら朝早く集合しよう」という高校生らしい可愛い理由だった。
ラブホテルについた二人はどこかぎこちなかったが、お互いの緊張が繋いだ手から伝わらないよう精一杯大人のフリをした。ホテルに行くのが初めてだった私は見慣れない豪華な部屋に終始興奮していて、遊園地にきたかのようにはしゃぐ私を見て彼は嬉しそうに笑っていた。
最初にお風呂にお湯を溜め、二人で一緒に入った。彼は大きな手で私の髪の毛からつま先までを丁寧に、優しく洗ってくれた。大好きな彼の指先が髪の間をすり抜けるたびに多幸感で身体が痺れた。溜めた湯船から二人分のお湯が溢れていくように、愛しい感情が溢れた。
髪を洗ってもらっている間、目を瞑っていた私の後ろからシャワーに手を伸ばした彼にそのまま優しくキスをされたときの感覚を今でも覚えている。あの時の私は紛れもなく世界で一番幸せだと言えただろう。
お風呂から出た私たちはまだ髪も乾かないうちに冷たいシーツに包まってキスをした。
彼の唇が首筋を通って下がっていき、その度に身体が跳ね、心臓は今にも割れそうだった。
愛という見えないものがはっきりと目に見えるような気がして涙が出そうになった。
一つになったあと、私たちは息を切らして天井を見上げながら「卒業おめでとう」なんて冗談を言い合って笑っていた。
十八歳の私たちにとっての世界は、確かにあのラブホテルの中にあったのだと思う。
けれどその彼とは卒業を間近にして別れてしまった。理由は生活のすれ違いにより彼の気持ちが離れてしまったこと。大学生になった私たちは別々の道に進み、会うことはなくなった。
あの時は喪失感で何も手につかなかったし、電車だろうが道端だろうがおかまいなく永遠と声を上げて泣いていた。
別れて4年が経った今も、私は彼のことをふと思い出しては泣いてしまう。
彼の匂いや指先、声、全てを忘れることができないままだ。
前を向くために付き合った今の彼氏のことも、元彼と比べてしまって苦しくなる。
「ビル崩壊したんだ、怖いね」
ハッと我に返って彼からのLINEに返信をする。
私にとって特別だったあの場所は、解体作業中にガラガラと物凄い音を立てて崩れたらしい。
青くて儚い高校三年生の記憶も、一緒に崩れ去ってくれたらいいのに。
そんなことを考えながら、私は深く春の夜の空気を吸い込み、少しだけ泣いた。
馬鹿みたいに早い午前8時、
慣れないながら、精一杯リードしようとしてくれた彼。
初めてを捧げて、この人と結婚だってしちゃうんだとおもってた私。
あのラブホテルは、私たちの全てだった。
仕事終わりに見た彼氏からのLINEでニュースを知る。
どの辺か気になって検索をすると、崩壊したビルの写真が出てきた。
そこは、大好きだった元彼に処女を捧げたラブホテルだった。
あの時私は高校三年生で、彼も同い年だった。彼とは面白いくらい性格や趣味が合い、お互い強く惹かれあっていた。それはもう今まで馬鹿にしてきたような恥ずかしいラブソングの歌詞さえも私たちのためにあるかのような気がしてしまう程で、会える日が待ち遠しくて仕方なかった。
とにかく私は彼を心から愛していたし、彼もまた私のことを心から愛していた。
付き合って1カ月を迎える頃、彼は少し恥ずかしそうに頬を緩めながら「そろそろしてもいい?」と聞いてきた。
まだ処女だったけれど、彼に全てを捧げてもいいと本気で思っていた私は少し悩んだあと彼のお願いを受け入れることに決めた。
と言ってもまだ高校生だった私たちはお酒の勢いで、なんてことも出来ずにデートの約束をするようにホテルに行くことを約束した。
私たちは午前8時に約束をしてラブホテルに行った。
「夜遅くまではいられないから、だったら朝早く集合しよう」という高校生らしい可愛い理由だった。
ラブホテルについた二人はどこかぎこちなかったが、お互いの緊張が繋いだ手から伝わらないよう精一杯大人のフリをした。ホテルに行くのが初めてだった私は見慣れない豪華な部屋に終始興奮していて、遊園地にきたかのようにはしゃぐ私を見て彼は嬉しそうに笑っていた。
最初にお風呂にお湯を溜め、二人で一緒に入った。彼は大きな手で私の髪の毛からつま先までを丁寧に、優しく洗ってくれた。大好きな彼の指先が髪の間をすり抜けるたびに多幸感で身体が痺れた。溜めた湯船から二人分のお湯が溢れていくように、愛しい感情が溢れた。
髪を洗ってもらっている間、目を瞑っていた私の後ろからシャワーに手を伸ばした彼にそのまま優しくキスをされたときの感覚を今でも覚えている。あの時の私は紛れもなく世界で一番幸せだと言えただろう。
お風呂から出た私たちはまだ髪も乾かないうちに冷たいシーツに包まってキスをした。
彼の唇が首筋を通って下がっていき、その度に身体が跳ね、心臓は今にも割れそうだった。
愛という見えないものがはっきりと目に見えるような気がして涙が出そうになった。
一つになったあと、私たちは息を切らして天井を見上げながら「卒業おめでとう」なんて冗談を言い合って笑っていた。
十八歳の私たちにとっての世界は、確かにあのラブホテルの中にあったのだと思う。
けれどその彼とは卒業を間近にして別れてしまった。理由は生活のすれ違いにより彼の気持ちが離れてしまったこと。大学生になった私たちは別々の道に進み、会うことはなくなった。
あの時は喪失感で何も手につかなかったし、電車だろうが道端だろうがおかまいなく永遠と声を上げて泣いていた。
別れて4年が経った今も、私は彼のことをふと思い出しては泣いてしまう。
彼の匂いや指先、声、全てを忘れることができないままだ。
前を向くために付き合った今の彼氏のことも、元彼と比べてしまって苦しくなる。
「ビル崩壊したんだ、怖いね」
ハッと我に返って彼からのLINEに返信をする。
私にとって特別だったあの場所は、解体作業中にガラガラと物凄い音を立てて崩れたらしい。
青くて儚い高校三年生の記憶も、一緒に崩れ去ってくれたらいいのに。
そんなことを考えながら、私は深く春の夜の空気を吸い込み、少しだけ泣いた。
馬鹿みたいに早い午前8時、
慣れないながら、精一杯リードしようとしてくれた彼。
初めてを捧げて、この人と結婚だってしちゃうんだとおもってた私。
あのラブホテルは、私たちの全てだった。