タイミングを見誤った、私の宙ぶらりんの「好き」
大学2年生の夏、3年半くらい付き合った人と別れた。
理由は単純明快、わたしの気持ちが離れたこと。
気持ちが離れてしまった瞬間に生まれた気持ちは、「寂しい」とか「一人でいたくない」とか「次が欲しい」とか。
本当に自分勝手で汚くて恋愛や人間に依存していたものだ。
今思い出してもウンザリするくらい。


処女でもなかったし、別に本気になる次が欲しいわけじゃなかったから、とりあえずマッチングアプリを入れた。
何人とも寝て、その度上がっていく対人スキルと行為の時の男の扱い。
自分の可愛く見える表情。角度、ギャップの見せ方。

その生活に飽きてきて、何やってんだろ、疲れたなって思ったとき、彼に出会った。
わたしの生涯で一番好きで忘れられなくて、今でもあわよくば道端で偶然……なんて、そんなありもしない奇跡を願ってしまうような人。
彼は5歳上で、煙草が嫌いで、細身で背が高くて、わたしの笑顔が好きだと言ってくれる。

最初のデート、初めて会った瞬間に「欲しい」と思った。
別に普通の人だったし、クズみたいな雰囲気もないし、好青年って感じでなにも変わったところなんてなかったのに、付き合いたいと直感的に感じてしまった。

1回目のデートはカラオケで、この後にホテルにでも行くのかなと思っていたら、ちゃんと家まで送り届けられた。
あとから聞くと「1回目のデートで手を出さないのは普通でしょ!」と。
やっぱり普通のひとだ。

2回目は彼の家の近くを通ったとき、会いたいなと思ってしまったから連絡した。
夜遅かったのもあって、家に上げてくれて、お風呂まで貸してくれて、同じ布団で寝た。
その時に言われた「会って2回目でこんな事言うの変かもしれないけど、好きみたいなんだ」の言葉をわたしは忘れられない。
嬉しくて泣きそうで、でも簡単に付き合っていいのかわからなくて、悩んで悩んでようやく絞り出した「付き合おう」はきっと震えていた。

その夜も手は出されなくて、やっぱり普通のひとだって思った。


求めていなかったはずの本気の恋愛が始まってしまった。

3回目に会って、やっと初めて求められて、死ぬほど嬉しくて幸せで。
趣味も笑いのツボも一緒、たくさん共通のアーティストのライブにも行ったし、体の相性だって申し分ない。

幸せだ。こんなに幸せでいいのか。

気づけばわたしはその人の前で、アプリで覚えたはずの自分の嘘の見せ方をしていなかった。
それほどに距離は近づいて、わたしは彼の部屋にいつもいて、しっぽを振って帰りを待つようになってた。

My Hair is Badの接吻とフレンドみたいな。
君の言うことを聞いて、いつでもキスして迎えて。
君の手のひらで踊って。でも踊らされていたかった。みたいな。

時々実家に帰っても、夜おいでと言われたら何時だって何をしてたって彼のところに向かった。
それが正解だと思っていて、
犠牲を払ってでも彼が欲しくてたまらなくて、
いつもそれが愛だと信じながら恋に溺れていた。


だけど案外あっけなく終わった。
彼はアプリを辞めていなかった。

あぁ、そうか。
本気の恋愛だと思っていたのはわたしだけだった。
追いかけすぎた。追いかけすぎてしまった。
気づいていても止められなかったほど好きだったのに。

でも彼はわたしのことが好きだと言う。

俺らが出会ったのが5年後だったら。
結婚を考えられる年だったら。
実現するのが無理なたらればを唱える彼に「そうか。」と思った。
恋愛はタイミングが大事ってこういうことね。

じゃあタイミングを見誤った、私の宙ぶらりんの好きはどこに行けばいいの?

宙ぶらりんの好きを埋めるために、結局彼と会い続けた。
この好きは私にしか救えない、彼にしか埋められない。
タイミングなんてクソ喰らえ。

気づけば付き合った期間の半年よりも長く、彼と曖昧な関係を続けていた。
好き同士だけど付き合ってない、意味わかんない関係。
タイミングに恵まれなかった可哀想で滑稽な関係。

彼の東京転勤を皮切りに、わたしたちは会えなくなった。
その時期に丁度コロナウイルスも流行り始めて、またわたしたちはタイミングを見失った。
もう会うなって言われてるみたいだった。
諦めろって神様に言われてるみたいだった。
悔しい。

会えないストレスで、彼のストーリーに映る女友達にも嫉妬した。
「どうせ彼女じゃないから」なんて、こんな一言言いたいわけじゃなかった。

今なら分かる。
あの時彼から言われた「好きな人ができた。だからもうやめよう」は、優しさだった。
タイミングの神様から見放されたわたしへの「もういいんだよ」の優しさ。
頑張ったよ、頑張った。あなたを好きでいることを頑張った。
でも、それって愛じゃなかったね。
恋に執着してた。恋に、恋してた。

分かってたんだ。でも好きだったんだ、ほんとに。

いつの間にかまた吸うようになってた彼の嫌いな煙草の煙を見つめながら、耳元ではマカロニえんぴつのブルーベリー・ナイツが流れる。

「愛がないなら、もう会えないよ」
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