彼にとっての私は、もう通りすがりの人だったんだ。
「世界で1番好きな人は?」と人に聞かれた時
真っ先に思い浮かべるのは彼だった。

彼は、私にとって高校3年間の思い出の全てだった。
彼の立ち振る舞いが、言葉が、仕草の全部が
大好きで、完璧だった。

でも大学に進学して、離ればなれになると
私たちは当たり前のように別れてしまった。

理由は思い出せない。
たぶん大したことじゃない。
それに、こんなに想い想われてたんだから
きっといつか戻るはず。

初恋特有の根拠のない、運命を私はどこかで信じたまま
他の人と恋愛をした。

けど結局私にとって、その人たちは
あくまで「その他」の登場人物であって
「いつか戻ってくるその人」を待つ間の通りすがりの人に過ぎなかった。

大学を卒業して、社会人1年目の冬。
お正月に帰省をした時、地元の居酒屋で
5年ぶりに彼と会った。

あの頃と変わらない笑顔で「久しぶり」と
手を振る彼をみて、
「ああ、やっぱりこの人と結ばれるんだ」と確信した。

お互いに連れていた友人も同じ席にいて、
みんなでお酒を交わしながらも、
私たちはお互いを確実に
「初恋の人」だと意識していたと思ってた。

解散したあと、彼からラインがきた。

「久しぶりだったね。よかったら飲み直さない?」

一目散で彼のところに走って、
そのまま2人でバーに行った。

高校生で制服を着てデートをしていた私たちが
大人になって、少し垢抜けて
それなりに色んな人と恋愛してセックスして
こうして今一緒にカクテルなんて飲んでいる。

5年前に一緒に行った水族館が、今は改装工事をしているとか、
カラオケで彼が歌ったサザンが本当に下手くそだったとか、
私が初めて体育祭で彼にお弁当をつくろうとして失敗したとか
大人になってもそんな話ばかりしてゲラゲラ笑ってた。

2杯目を飲み終えた時、彼が「このあとも一緒にいよう?」と聞いてきた。
低くて、艶かしい、
今まで一度も聞いたことのない、彼の声だった。

雪崩のごとくホテルにたどり着いた私たちは
今までの時間を取り戻すように
お互いの身体を確かめ合った。

5年前よりも少しゴツゴツした二の腕、
慣れた手つきで避妊具を装着する姿、
唇を弄ぶようなキス。

ああ、私たちは別れてから5年も経ったのか。

その間、何人とセックスしたんだろう。
どれだけの好きを言ったんだろう。
彼を運命の人だと、どれだけの女が思ってきたんだろう。


そんな事を考えながら身体を重ねた。

次の日に、「また連絡するね」と言って彼と別れた。
そこからいくら待っても、彼から連絡はない。


ああ、世界で1番好きな人だったなあ。


1番会いたくて、1番会うんじゃなかった。


彼にとっての私は、もう通りすがりの人なんだ。



やっと実感した時、涙が止まらなかった。
泣きながら、私が好きだったのは
高校生の、制服を着た、他の女を知らない彼だったと気付いた。


社会的5年目の今年の冬、
地元の友達から、彼が結婚するらしいという噂を聞いた。


そっか。運命の人、やっぱり私じゃなかったんだね。


でもね、私もあなたが運命の人じゃなかったの。

左手の薬指にはめた指輪をなぞりながら想う。


でもね、世界で1番大好きだったの。
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