あれから10年以上経った今、私は女性として生活を送っている。
小さい頃から可愛い物が好きで、ごっこ遊びでも率先してお姫様役を選ぶ子だった。
母に無理やり美容室に連れて行かれて、伸ばしていた髪の毛を切られたときには、とても悲しくて大泣きした。
私はただ、他の女の子と同じようにしたかった。

そんな私も小学生になると、黒いランドセルを背負い、中学生になると当たり前に学ランを身につけた。
私もそれが当たり前だと思っていた。


高校2年生の頃、彼に出会った。
彼はとても優しい人だった。
引っ込み思案な私と明るい彼。
私が落ち込んでいるとふざけだして、必死に笑わそうとしてくれた。
私が笑うと、彼もとても嬉しそうにしていた。
そんな彼のことが好きで好きで仕方なかった。
彼といると、モノクロの世界も鮮やかに色付いた。


彼が私の部屋に遊びに来た時のこと。
いつもの様にふざけ合っていると、
急に後ろから抱きしめられた。
数十秒の出来事だったけれど、私はこれまでにない多幸感を味わった。
今この瞬間、世界が滅んで、死んでしまっても構わないとさえ思った。
そして、彼が言った。

「お前が女だったらな」

それは、私と彼が一緒になれない現実をこれでもかと突きつける言葉だった。


高校を卒業してからは会うこともなくなったけれど、
どうしても彼のことを忘れられないでいた。

今更想いを伝えたとして、どうなる訳でもない。
なのに、どうしても伝えたいと思ってしまう自分がいる。
言って避けられたら?嫌われたら?

むしろ、言ってしまえばこんなふうに悩むこともないのではないか。
もういっそ伝えてしまおうか。
これから先、あの時のように毎日顔を合わせることもないのだから。


大学1年の夏、私は彼と会うことを決めた。

当時の気持ちを伝えるために。

お互いの近況を報告しながらご飯を食べ、帰る時間になったとき、緊張でしどろもどろに
なりながらも私は伝えた。

「あの頃、好きだったんだ」

彼は少し困った顔をして、それでも当時と変わらない笑顔で一言、「ありがとう」と言った。
彼の中で私を傷つけないように考えた、とてもとても優しい拒絶だった。
いつだって彼の優しさには容赦が無かった。

「俺も」なんて期待してなかった。
けどせめて、動揺する顔くらい見せて欲しかった。

彼とは、それきりになった。


あれから10年以上経った今、私は女性として生活を送っている。
街を歩けばナンパもされるし、髪の毛だってロングヘアにしている。
それなりに恋愛もしてきたけれど、彼のことを忘れたことは1日として無かった。

人生で本当に愛する人は1人だけだと聞いたことがある。
私は10代のころに既に出逢ってしまったのだった。

彼は今頃どうしているのだろうか。
彼との思い出は見えない鎖となって、未だに私の心を優しく縛っている。
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