男友達とはじめた"同居"が、あの時確かに"同棲"に変わった
男友達がいた。

高校で出会ってすぐに意気投合して、仲良しコンビで周知されていた。
そのことが私にはとても嬉しくて、彼は何があっても手放したくない存在になっていた。
本当は顔がめちゃくちゃタイプで最初は意識してたけど、付き合ったら終わりが来る。
恋なんてしたら失ってしまう。


3年が経った頃、実家を出るために部屋探しをしていたら
2LDKの2人で折半するにはとても良い条件の家を見つけた。
それとなく女友達と会う時にこの話をして、同居人候補を探していた。

「一緒に住む?」

ぼんやりと求めていた提案を最初に出してくれたのは彼だった。

そのままノリで内見に行った。

「こっちが俺の部屋な」

付き合ってない。
個人部屋があるからセーフだろう。
お互い家族が口を出してくることもなかったし、ただ友達にはあまり言わないようにして同居を始めた。


いつも遊びに出かけた時みたいに、口喧嘩して、じゃれあって、笑う相手が家にいる。
同棲じゃなくてシェアハウス、って感じの楽しい日々。
これなら大丈夫。失わない。


1か月経ったある日のこと。
リビングでテレビを見ていた。

「あー彼氏ほし」

口癖を呟いた私に彼が対抗する。

「あー彼女ほし」
「女と住んでるやつにできるか」
「それそのまま返すわ」
「間違いない」

いつもの流れが何だか上っ面だった。
だって彼氏はいらない。
手放したくない彼が、今はほとんど私のもの。
この状況は絶対に変えられない。

その後、狭い洗面台の前に2人並んで、両側の壁に挟まりながら歯を磨く。
私が先に口をゆすぎ終わって、彼の邪魔をする。
彼は笑ってしまってうまく口をゆすげないで、手を洗いながら互いを壁に押し付けあう。
これはいつものじゃれあい。

彼が口を腕で拭い、ふとこちらを見る。

目を合わせた瞬間、キスをされた。

半笑いのままの彼。

初めて私たちの関係が変わった瞬間だった。
逃げられなかったのは狭さのせいだ。
幸せな感情が込み上げてニヤけてしまう。

分かってた。
何が部屋が違うからセーフだよ。

せめて言葉で逃げる。

「あー、やっぱ彼氏できひんなあ」

彼の濡れたままの手のひらが私の頭に置かれる。

「俺で良くない?」

負けだ。
今だけの幸せでもいいや。
私は笑ってキスを返して、そそくさとソファに戻った。

その会話だけで付き合ったのかは分からなかった。
ただ、同居は同棲になった。


しかし、3年間私が恐れていた彼との別れは、半年後にあっけなく訪れた。

元々友達同士だといって一緒に住み始めた仲だ。
そんな私たちが、恋人として長く続くわけもなかった。

本当は同居を提案された時には既に、彼を失うことが決まっていた。
感情で動いたことに反省するし、正直な思いも伝えないまま彼を失ったことを後悔する。

あの日のことだけはこれからも絶対に忘れない。
あの日の通じ合った私たちがいたことだけは、絶対に失わない。
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