私は絶対に“物分りのいい女”になる
⚠この純猥談は不倫表現を含みます。
小学五年生の秋、二階で父の携帯電話を盗み見た。

ドラマや漫画で、浮気やら不倫やらを知り、興味がわいてくるお年頃だっただけ。それらは所詮フィクションだと信じきっていたが、好奇心には勝てなかった。

不用心な父の携帯には、パスコードがかかっていなかった。中身を見るなんて容易なことだ。ドキドキしながら開いたメールの受信履歴。母の名前ではない、見知らぬ女の名前が膨大に連なっている。恐る恐る、一件のメールを開く。

『私と一緒になるって約束したのに、二人目の子まで産んで育てて、いつまでも奥さんと別れないじゃない。嘘つき』

夢かと思った。
カチカチカチカチとガラケーのキーを押し続ける音と、最初に読んだあの文章が強く強く脳にこびりついて、今も頭から離れない。

後日、もう一度父の携帯を覗き見ようとしたが、パスコードロックがかかっていて、もう二度と中身を見ることが出来なかった。


男の人は不倫する生き物だ、と私は知っている。
男の人は性に忠実なくせに、結局は二番手を選ぶことは無い事実も、私は知っている。

私の隣にいる彼も、然りだ。

彼は私を愛しているし、私も彼を愛している。しかし一生添い遂げることはできないと、お互い割り切っている。
私と彼は、愛のある都合のいい関係。


不倫は悪いことだと分かっているし、肯定するつもりはない。
これが明るみになったとき、ご家族がどれほど辛くて苦しくて悲しい思いをするのか、痛いほど理解できてしまう。

だから私は絶対に“物分りのいい女”になる。

私からは絶対に連絡をしない。
会うときは絶対に香水を付けない。
彼の車から降りるとき、髪の毛一本も落として行かぬよう、細心の注意を払う。
まるでくノ一。

彼が嬉々として家族の話をするときも、熱心に耳を傾ける。
彼に対してリスペクトと愛情を抱くのと同じように、彼の家族をもリスペクトし、愛するために。

彼の家族のために、という言葉は、結局私のエゴでしかないけれど。


「君は俺の彼女だから」

彼は私と会う度に、そう言って私を抱きしめる。私と手を繋ぐ。私とキスする。

私のこと、彼女だと言わないでよ。

私を彼女だと呼ぶなら、そんなに好きなら、じゃあどうして私を一番にしてくれないの?どうして私のもとに来てくれないの。


LINEの軽快な通知音が鳴る。
彼からのLINE。

『今週末、空いてる?』

父のメール履歴を思い出す。
名しか知らないあの女も、こんな気持ちだったのかなあ。
鮮明に残っている過去の記憶に、少しだけ情が移って、胸が苦しくなる。

ふつふつと沸いてくる犯罪級の感情を、心の奥へ奥へとしまい込む。


『空いてますよ。会いますか?』


簡素な文面にたっぷりの愛を込めて、送信ボタンをそっと押した。
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