「俺がバンドで売れて、君より稼げるようになったら迎えに来るから」
8年前、売れてないバンドマンとそのファン第一号として出会った。
小さいライブハウスに出てるバンドマンは、良くも悪くも距離が近いし、すぐに繋がれてしまう。
お客さんが私1人なんて日もザラだった。
バイト先を教えてもらって冷やかしにいったあの日から、プライベートでも会うようになった。
お互いの家でお酒を飲んで終電を無くして泊まることだって何十回とあったけど、そんな関係にはならなかった。
「バンドマンってファン食いまくってるイメージだったけどそんなことないんだね」と笑うと、
「ほんとに大事な子には手出せないのはバンドマンも同じ」と君も笑う。
出会って2年目、私たちは付き合うことになった。
毎日すごくすごく幸せな日々で、1番に新曲を聴かせてもらって毎日ベッドで横に座って特等席で彼の演奏を聴いた。
3年間付き合ってお互いに「結婚」ということが現実味を帯びてきた頃、
私は趣味にしていたカメラで、色々なバンドを撮影させてもらうようになっていた。正社員として仕事もはじめた。
彼はというとバイトを2つ掛け持ちしても、楽器代やスタジオ代、ライブに出演しても赤字でその費用で全てお金は消えていた。
「遊びに連れて行ってあげれない」
「結婚したら苦労かけてしまう」
と彼が不安を漏らすことが増えてきた。
私はありがたいことにカメラで生活できるくらいには稼いでいたし、加えて会社で働いていたから金銭的に余裕があった。
だけど2歳下の私に金銭的に頼っていることが彼には耐えられなかったらしい。
「本当に君が大好きだから、俺のこと嫌いになってほしくない。だから別れて欲しい」
本当に酷い言葉。
なんでお互い大好きなのにお別れしないといけないんだと私は彼の前で泣いて泣いて泣いて、必死に止めた。
そんな彼が私の手を握って言う。
「俺がバンドで売れて、君より稼げるようになったら迎えに来るから」
何歳までにお互い独身なら結婚しようとか、
迎えに来るよ、なんて、
誰が信じるんだろうって思ったし、
そんな叶いもしない約束をして私の元から去っていくなんて許せなかった。
「もういいよ 荷物まとめて出て行って」と背中を向ける私に、
「ごめんね」と呟いてうちにあった彼の洋服を片付けていく。
「...これだけはさ、約束の証として持っといて。」と後ろから声をかけられたけど、もう泣いてるぐちゃぐちゃの顔なんて見られたくなくて
「うん」とだけ呟く。
「いままでありがとう。君もカメラマン頑張ってね。あの場所で再会出来たら結婚しようね。」
と震える声が聞こえた。
だからそんな叶わない約束を残していかないでよ。結婚しようって言うならいましてよ、別れないでよ。
彼が出て行って広くなった部屋を見渡す。
約束の証。
私もギターを少ししていて、付き合った頃にお互いのギターを交換していた。
彼は私のギターでライブに出ていたし、うちには彼のギターがあった。
それを約束の証として置いていった。
別れてから私はギターを触る気力なんて無くて、埃を被ったオブジェになっていた。
大好きだったからすぐに忘れることはできなかったけど、2年が経つ頃には思い出として昇華できていたと思う。
私は正社員で働いていた職場を辞めて、カメラだけで生活していて、殆どの大型フェスでの撮影を行っていた。
続々と解禁されていくバンドの中に見覚えのある名前があった。
彼のバンド。
別れてから彼のバンドのことは流れてこないようにしていたから驚いた。
そう、その会場こそが付き合っていた時からの2人の夢。
彼が大きいステージで演奏している姿を私がカメラマンとして残す。
それが叶う日だった。
別れて2年が経った今更、だが。
私のことなんて覚えているわけがないと思っていたし、
彼も私がカメラマンを続けていて、その日撮影で入ることも知らないだろう。
当日。緊張で死にそうだ。
いつもの緊張とは明らかに違う。
深呼吸して普段いつも撮影させてもらってるバンドの方に挨拶回りをする。
沢山沢山人がいる中で遠くから歩いてくる人が目に入った。
彼だ。
声をかける?でももし私のことを忘れてたら?
...そんなの、泣いてしまうかもしれない。
せっかく想い出に出来たのに、また立ち直れなくなってしまうかもしれない。
と色んなことが頭を巡るうちに、彼が目の前に来て、あの時の屈託のない笑顔で笑う。
「迎えに来たよ」
小さいライブハウスに出てるバンドマンは、良くも悪くも距離が近いし、すぐに繋がれてしまう。
お客さんが私1人なんて日もザラだった。
バイト先を教えてもらって冷やかしにいったあの日から、プライベートでも会うようになった。
お互いの家でお酒を飲んで終電を無くして泊まることだって何十回とあったけど、そんな関係にはならなかった。
「バンドマンってファン食いまくってるイメージだったけどそんなことないんだね」と笑うと、
「ほんとに大事な子には手出せないのはバンドマンも同じ」と君も笑う。
出会って2年目、私たちは付き合うことになった。
毎日すごくすごく幸せな日々で、1番に新曲を聴かせてもらって毎日ベッドで横に座って特等席で彼の演奏を聴いた。
3年間付き合ってお互いに「結婚」ということが現実味を帯びてきた頃、
私は趣味にしていたカメラで、色々なバンドを撮影させてもらうようになっていた。正社員として仕事もはじめた。
彼はというとバイトを2つ掛け持ちしても、楽器代やスタジオ代、ライブに出演しても赤字でその費用で全てお金は消えていた。
「遊びに連れて行ってあげれない」
「結婚したら苦労かけてしまう」
と彼が不安を漏らすことが増えてきた。
私はありがたいことにカメラで生活できるくらいには稼いでいたし、加えて会社で働いていたから金銭的に余裕があった。
だけど2歳下の私に金銭的に頼っていることが彼には耐えられなかったらしい。
「本当に君が大好きだから、俺のこと嫌いになってほしくない。だから別れて欲しい」
本当に酷い言葉。
なんでお互い大好きなのにお別れしないといけないんだと私は彼の前で泣いて泣いて泣いて、必死に止めた。
そんな彼が私の手を握って言う。
「俺がバンドで売れて、君より稼げるようになったら迎えに来るから」
何歳までにお互い独身なら結婚しようとか、
迎えに来るよ、なんて、
誰が信じるんだろうって思ったし、
そんな叶いもしない約束をして私の元から去っていくなんて許せなかった。
「もういいよ 荷物まとめて出て行って」と背中を向ける私に、
「ごめんね」と呟いてうちにあった彼の洋服を片付けていく。
「...これだけはさ、約束の証として持っといて。」と後ろから声をかけられたけど、もう泣いてるぐちゃぐちゃの顔なんて見られたくなくて
「うん」とだけ呟く。
「いままでありがとう。君もカメラマン頑張ってね。あの場所で再会出来たら結婚しようね。」
と震える声が聞こえた。
だからそんな叶わない約束を残していかないでよ。結婚しようって言うならいましてよ、別れないでよ。
彼が出て行って広くなった部屋を見渡す。
約束の証。
私もギターを少ししていて、付き合った頃にお互いのギターを交換していた。
彼は私のギターでライブに出ていたし、うちには彼のギターがあった。
それを約束の証として置いていった。
別れてから私はギターを触る気力なんて無くて、埃を被ったオブジェになっていた。
大好きだったからすぐに忘れることはできなかったけど、2年が経つ頃には思い出として昇華できていたと思う。
私は正社員で働いていた職場を辞めて、カメラだけで生活していて、殆どの大型フェスでの撮影を行っていた。
続々と解禁されていくバンドの中に見覚えのある名前があった。
彼のバンド。
別れてから彼のバンドのことは流れてこないようにしていたから驚いた。
そう、その会場こそが付き合っていた時からの2人の夢。
彼が大きいステージで演奏している姿を私がカメラマンとして残す。
それが叶う日だった。
別れて2年が経った今更、だが。
私のことなんて覚えているわけがないと思っていたし、
彼も私がカメラマンを続けていて、その日撮影で入ることも知らないだろう。
当日。緊張で死にそうだ。
いつもの緊張とは明らかに違う。
深呼吸して普段いつも撮影させてもらってるバンドの方に挨拶回りをする。
沢山沢山人がいる中で遠くから歩いてくる人が目に入った。
彼だ。
声をかける?でももし私のことを忘れてたら?
...そんなの、泣いてしまうかもしれない。
せっかく想い出に出来たのに、また立ち直れなくなってしまうかもしれない。
と色んなことが頭を巡るうちに、彼が目の前に来て、あの時の屈託のない笑顔で笑う。
「迎えに来たよ」