映画の予定すっぽかされたって、何時間も待たされたって僕は彼女が好きだった
夏が始まる前に付き合って、秋を感じる前に別れた短い大学1年の夏の話。


出会いはサークルで、趣味なんかも合って話してるうちに仲良くなった。
初めて見たときの派手な赤い口紅が、
距離を置きたいタイプの人間のはずなのに忘れられなくて、
その日のうちにLINEをもらって連絡を取った。

肩の露出した服にシルバーのアクセ。
少し悪い言い方をすれば頭の悪そうな格好で、それでもって時間にルーズで潰れるまで飲んでしまう彼女に僕は少し嫌悪感を覚えた。
自分で言うのも恥ずかしいが、時間はきちんと守るタイプの人間だったし、潰れるまで飲んだこともなければ吐いたこともなかった。
それでもしばらく話しているうちに、僕は彼女に夢中になっていった。


何度か色んなところに出かけて、そのうち付き合うことになった。
カラオケで2人酔っ払いながら、ロマンもクソもない告白で、それとなく付き合い始めた。

彼女も僕もそういうことに興味があって、付き合ってひと月も経たないうちに寝た。
処女だった彼女は、初めて入るラブホテルに興奮していた。
アメニティーが立派だの、ジェットバスが光るだの騒ぐ姿は、とても愛らしかった。

それからも何度もホテルに入り、何度も彼女と寝た。
控えめな胸も高い喘ぎ声も、下着の上から触られるのが好きだから僕がすぐに脱がせようとすると怒るところも可愛かった。
その時間は何にも代え難いほど楽しくて、
塗りたてのペンキのように輝いていて、
それでいて不思議なほどに幸せだった。


僕はキスマークというものに特別な感情がある。
スペシャルというか、普通から少し離れたもの、と表現するのが正しいかもしれない。

キスマークを付けるのも付けられるのも好きだった。
そこにある痒いような痛みが、
ふとしたときに目に映る普通とはかけ離れた何かが、
距離を超えて、その人をそばに感じることができる気がする。

彼女はキスマークを付けるのがあり得ないほど下手くそで、一度もうまく付けられることはなかった。
僕はよく付けたが、目立つところに付けるのはやめてと言われていた。
恥ずかしいからやめてよって拒否されるその会話でさえ、
セックスの最中にキスマーク付けようとして頭を押しのけられることでさえ好きだった。

僕は毎回のようにキスマークを付けた。
怒られたって付けていた。
それほどキスマークについて並々ならぬ思いがあった。


僕は本当に彼女が好きだった。
映画の予定すっぽかされたって、
何時間も待たされたって好きだった。
話をすれば変わってくれると思ってた。
でも、彼女は変わってくれなかった。
好きだったけれど、これ以上彼女に合わせることがしんどくて別れることを決心した。

「そういう風に上から直してくれよって言われることが気に入らなかった」
別れ際に彼女に告げられた。
僕にも悪いところがあったとは思うけど、
これに関しては、自分は間違ってないと思った。


それでもしばらく彼女を忘れられなかった。
友達と飲んで彼女と別れたんだって話す度に、
色々思い出して涙を流す度に、
別れを実感してどんどん彼女が恋しくなった。

バイト先の後輩の家で飲んでいて、
いい雰囲気になっても、
指を絡ませて見つめあっても、
彼女が脳裏にチラついてどうにもそんな気分になれない。
その人がシャワーを浴びている間に寝て、揺すられても寝たふりをしていた。
そのうち諦めたのかメイクを落とし眠っていた。
寝たのを確認して、1人酒を飲み続けていたそのとき、
彼女と別れる前、最後に会ったときのことを思い出した。


映画の予定をすっぽかされた次の日だった。
カラオケで2人でこれからについて話をしていた。

彼女は確かにだらしなくてゴミみたいなやつだったが、
それについて自覚があっていつも本当に申し訳無さそうに謝っていた。

「私ってきっとバグってるの。直そうと思っても直せる自信がないの」
そう涙を流しながら彼女は話した。
「それでも君が好きな僕も、バグってるのかもしれないね」
そう言って彼女の首にキスマークを付けた。
僕なりの覚悟だった。

すでに周りの友達には別れた方がいいと何人にも言われていた。
それでも彼女のそばにいると決めた決心のようなものがそのキスマークだった。
なのに、1ヶ月と経たないうちに別れてしまった。


それを思い出して以来僕は、
誰かの首についたキスマークを見たときに、
キスマークを付けようとするときに、
付けられるときに、
毎回ではないけれど、ふと彼女を思い出して感傷に浸るのだ。
未練は一切ないけれど、それでもたまに思い出しては、
悲しいような寂しいような、でも暖かいような複雑な感情に襲われるのだ。

次もしいつか僕が彼女に会ったとき、
彼女の首にキスマークがあったら僕は何を思うのだろうか。
逆に、僕の首にそれがついていたら、
彼女は何かを思ってくれたりはするのだろうか。
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