あの日と変わらぬ僕の匂いが好きだと彼女は微笑みながら言った。
匂いを嗅ぐ事により、その時の記憶や感情が蘇る事を「プルースト効果」と呼ぶらしい。
フランスの作家のマルセル・プルーストの作品の中の描写からそうつけられたそうだ。

陽気な香りに包まれたある初春の夜、
「匂いってやっかいだね」と彼女は僕の隣で涙を浮かべていた。


彼女と出会ったのは3年前、僕の大学と彼女の大学で合コンをした時だった。
人数合わせで呼ばれた僕は億劫なこの状況をなんとなくやり過ごそうと、他愛もない会話を繰り広げていた。

その後トイレを済ませ席へ戻ろうとしていると、
「つまんなそうだね」
と声をかけられた。
その声の主は、会話も届かない対角線に座っていた彼女だった。

「あ、反対側の子」
気づくと僕はそんな不躾な一言を発していた。
彼女は「そんな呼び方されたの初めて」と笑ってみせた後、席へ戻って行った。

トイレを済ませ席へ戻ると、席順が変わっていた。空いている席に座ると、
「隣の子に昇格かなあ」と先ほどの彼女が隣から顔を覗かせた。僕たちは自然と打ち解け、会話が弾んだ。

その後、やり取りを重ね、気づけば僕たちは2人で遊びに行く仲になっていた。
「私異性の親友が出来たの初めて」
彼女がそうつぶやくように、恋人と言うよりも友人と言ったほうが相応しい距離で仲を深めていた。


ある日の夜中、大学の友人とお酒を飲んでいると彼女からメッセージが届いた。
「会いたい」
こんなメッセージを送ってくることはなかったので、すぐにタクシーに乗った。

彼女の家に着くと、目を腫らしながら彼女が待っていた。
話を聞くと、バイト先の飲み会で先輩にお酒を飲まされ、無理やり持ち帰られそうになり、それを拒むと暴言を吐かれたということだった。

泣きやんで落ち着いた彼女が僕に抱きついて、
「君の匂い嗅いでると落ち着くなあほんと」彼女がそう言ってキスをした。
お酒の勢いに身をまかせ、僕たちはそのまま身体を重ねた。僕たちはこの日、親友をやめた。

次の日目を覚ますと、彼女は下手くそな笑みを浮かべながら、
「昨日は来てくれてありがとう。これからも友達でいようね」と言った。


月日は流れ、僕には同じサークルで出会った恋人ができた。
ほどなくして、彼女にも彼氏ができた。

それからも連絡を取っていたが、付き合った恋人と別れ、また一人になる頃には僕から送ることも、彼女から来ることもなくなっていた。

いつものように居酒屋でお酒を飲んでいた時、誰かが何かを感じ僕らの席の近くで立ち止まった。
僕はふと顔を上げた。

彼女だ。

まるで昨日も会った友達かのように近づき、他愛もない会話をした後別れ、お互い友人との席に戻る。

その2時間後、彼女から電話がくる。
「久しぶりに私の家で飲もうよ」

彼女の家でお互いに起こったことを話し合った。
彼女も恋人と別れていた。どちらから催促することもなく身体を重ねた。

行為の後、僕たちはたばこを吸いながら談笑していた。
あの日と変わらぬ僕の匂いが好きだと彼女は微笑みながら言った。

「付き合ってほしい」
僕が唐突にそう言うと彼女はあの日のような下手くそな笑顔を見せながら、
「別れたら君は離れて行っちゃうから、このままでいたいから、このままがいいなあ」

そう言った後、彼女の頬に涙がつたったように見えた。

それから僕たちは寂しさを紛らすように身体を重ね合うようになり、また離れていった。


気づけば季節は春になろうとしていた。
そんなとある日、あの日の合コンのメンバーでもう1度飲みに行くことになった。
久しぶりに見る彼女は雰囲気が違って見えてなぜか少し心が沈んだ。

僕たちは一言も会話をすることなく飲み会が終わった。
帰路につこうとしていた僕に彼女が
「少し話さない?」と言ってきた。

すぐそばの公園のベンチに2人で腰掛けた。
彼女は、僕のことが出会ってからずっと好きだったこと、恋人になりたかったが失うのが怖くて踏み出せなかったこと、つらくなって僕から離れて行ったことなど心の内をさらけ出すように涙ながらに話した。

そして最後に、

「香水変わってないんだね、あの頃、君の匂いが大好きだったなあ。」
「...じゃあ、幸せにね。」

あの日と同じ下手くそな笑顔を見せていた。
別れ際、彼女の匂いが僕の鼻をくすぐった。


僕たちはその日から連絡を取ることもなく、お互いの日常を送っている。
僕は香水を変えた。
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