恋人はこの三月に仕事を辞める。正確に言うと、辞めさせられる。
いつもの私達。
彼がうちに来てくれて、ご飯を一緒に食べて、YouTubeで一緒に動画を見て、お風呂に一緒に入って、一緒の布団で眠りにつく。眠りにつく前にじゃれあって、だんだんともつれ合って。


「やっぱりやわらかくて気持ちいいなぁ」
繋がって私を膝の上に乗せ、ぎゅっと抱き締めながら彼が言う。
無性に可愛らしく感じて、そっと彼の頭を抱き返して体を揺り動かすと、私の下で甘く呻く声が聞こえた。
対抗するように彼も下から突き上げてくる。熱で出来た杭を打ち付けられるたびに、体の真ん中が、逃げ出したくなるほどの快感に痺れた。付き合いたての頃は最中におろおろしていたのに、今ではどうしたら私が喜ぶのかしっかり覚えてくれている。
私より先にいって、「ごめんね」と甘ったるい声で申し訳なさそうに謝る彼に、「いいよ、気持ちよかったね」って頭を撫でてあげながらささやくのだって、いつも通り。


でもいつもより、私に覆いかぶさって甘えるこの人が、愛おしくて堪らない夜だった。


恋人はこの三月に仕事を辞める。
正確に言うと、辞めさせられる。
コロナで会社の経営が傾いたことが原因で、今のご時世ではそう珍しくない理由なんだと思う。
そうは言っても、仕事が無くなることには変わりない。彼から話を聞いた直後、あまりの不安に私が泣き出してしまって、

「も〜、泣かないで。大丈夫だから」

と、彼に呆れられながら笑われた。頭を撫でて、涙を拭って慰めてくれる彼の手が暖かくて、支えてあげなくちゃいけないのに泣いている自分が情けなくて、また涙が出た。
ちょっと面倒くさそうにため息をつきながら、それでも私を抱き締めてくれる彼は、本当に優しくて、そして私のことを大好きでいてくれてるんだと感じた。



果てた後の彼と抱き合う時間が、私は一番好きだった。広い背中は抱き締めると程よく筋肉がついていて、男性特有の硬さと、まだ行為の余韻で火照っているのを感じられる。鼓動が、背に回した手のひらと、重なり合った胸から伝わってくる。手を上に伸ばせばふわふわのくせ毛に触れて、爽やかでどこか甘いシャンプーの香りがした。

その全部が、大好きでたまらなかった。



命の重さが、去年よりずっと軽くなってしまった今、体全体で彼が生きている証拠に触れるとものすごく安心した。同時に、彼もいつか、「軽くなってしまった命」のうちの一つになってしまうんじゃないかと怖かった。
失業も廃業も珍しくない。でもその裏には困窮していく人達がいて、人生を諦めていく人だって中にはいる。諦めたくなくても、救われずに消えていく誰かがいる。



そんな泡沫の内のひとつに、あなたがなってしまうのが怖くて、私は泣くのだ。



彼の存在を確かめるようにもう一度抱きしめて、腕を解き、頬に手をそっと滑らせる。剃り残しの髭が引っかかってちくちくした。

"どうか、あなたが消えてしまいませんように。私が守ってあげられますように。"

祈るように、彼の厚い唇にキスをした。
いつもと同じやわらかさだった。
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