「そんなつもりなかった」って逃げるには最適の言葉だよね。
出会った時、私は新入社員、彼はまだ大学2年生だった。
彼は、私の就職先でアルバイトをしていた。

初めて挨拶した時、
たしか彼は髪色が明るいとか、何かしょうもないことで先輩に怒られていたっけ。

「初めまして。よろしくね。」

怒られた直後に挨拶するのも可哀想かな、と思ったけど、
「怒られちゃってたね(笑)」って言ったら、
へへ、と笑って自己紹介してくれた。

その時のバツの悪そうな笑顔が、なんだかとてつもなく愛おしくて、
私はこの人のこと好きになるかもしれないと、バカみたいだけど本気でそう思った。

そして、相手からも好意を寄せられているのは、すぐに分かった。

飲み会があると自然と近くに座ったし、流れで写真もたくさん撮った。
写真を送るという口実でLINEを聞かれて、私も私で、誰でもいい仕事をわざわざ彼に頼んだ。

彼は、一度聞いただけの私の誕生日を忘れずにいてくれたし、
私も一応聞いておいた彼の誕生日を、本当はしっかり覚えていたけど、格好つけて忘れたフリをした。
そうやって、なんとなく互いを意識する関係が続いて、一年が過ぎた。

付き合っちゃうかもな。
そんな妄想がぶち壊されたのは、2年目の夏だった。

「アイツ、Sさんと付き合い始めましたよ。」

ほかのバイトくんとの会話の中で、偶然知ってしまった。Sさんは彼よりさらに年下で、たしか専門学生だったっけ。バイトくんは作業の手を止めることなく、淡々と言い放ったけど、そのセリフは私のつむじあたりにガンっと落ちてきて、そのまま脳みそを通過して、喉を通過して、心臓のあたりで止まった。

「なんで言ってくれなかったの〜」なんて、オバさんみたいなセリフは、思ったよりスラスラ出てきたし、作り笑顔も上手かったと思う。
飲み会で彼女の話をする彼の顔が浮かなかったのは、「私には知られたくなかったんじゃないか」なんて都合良い解釈につながって、けどすぐ振り払って、目の前のジンジャーハイを飲み干した。

やっぱり、大学生がわざわざ社会人の女になんて好きにならないって。ほら、"憧れ"みたいな。
"憧れ"って便利だよね、相手に意識させるには十分だけどさ、「そんなつもりなかった」って逃げるには最適の言葉だよね。
現に年下が良かったんじゃない。

そんなことを頭の中で何度も呟いて、その日、帰りに少しだけ泣いた。
でも大丈夫、まだ本気じゃないし、そうなる前にわかって良かった。


そのあと私に彼氏が出来ても、
3年目の誕生日を彼は覚えてくれていて、
でもやっぱり私は覚えていないフリをして、また一年が過ぎた。

4年生になった彼は、無事就職も決まって、大学を卒業し、バイトも辞めた。
"Sさんと別れた"と送別会で聞いたけど、私は一応悲しそうな顔をしておいたし、
私の異動が決まったことも一応伝えたけど、それ以上は何もなかった。


そして、異動前の引き継ぎでバタバタ落ち着かないなか、社会人になった彼が突然訪ねて来た。

「お世話になりました。これハンカチ、使ってください。」

"ハンカチは送別品にしちゃダメなんだよ"なんて言いかけたけど、なんかまたオバさんぽいな、と思って、

「ありがとう。お仕事がんばってね。」

とだけ伝えた。

家に帰ってハンカチのラッピングを開けると、
手紙が入っていた。

"今までたくさんお世話になりました。"
"Kさんのおかげでバイト楽しかったです。"


仕事中も思っていたけど、綺麗な字だな。

"最後に、僕はKさんが好きです。"

なんだよ、今更。私は本気じゃないって。
だって彼氏もいるし。
君とは付き合えないよ。諦めてよ。

あの時の私みたいにさぁ。


何と返事をしようか悩んでいる内に、気づいたら1週間がたっていた。

1ヶ月後も、そのあとも、
私が返事をすることはなかった。

手紙をもらって一年以上すぎて、
新しい環境にも慣れたけど、
彼氏とは遠距離になり別れた。

ふっと彼の顔が浮かんだけど、
すぐに閉じ込めた。


"おめでとうございます"

久々にLINEが来たのは、やっぱり誕生日だった。

そこからは今までの回りくどさが嘘かのように、まるで台本でもあるかのように、
飲む約束をして、その日のうちに告白して、私の家でセックスもした。

身長の割に広い肩幅も、
柔らかい腕も、ちょっと長い前髪も、
それがかかってくすぐったいキスの感覚も、
全部私のものになった。

全部、ずっと、私のものなのだと、
思っていた。


「やっぱり、俺にとっては"憧れ"だった」
と言って、彼は私の手を離した。

私たちはものの3ヶ月で終わった。

セックスの回数で言えば、片手では数えられないけど、
両手で足りないとは言えない。
それっぽっちの時間で。

ねぇ、勝手に決めて置いていかないでよ。
やっとここまで来れたのに。

そう言って泣き喚きたかったけど、
「わかった」
「ありがとう」と言い放ったし、
実際、それしか選択肢は与えられなかった。

彼が憧れた私は、きっと今も昔も、彼の中にしか存在していなくて、
本当は、すごく惨めで、嫉妬深くて、素直じゃなくて、可愛くなくて、
寂しい人間なんだよ。

格好つけてるだけなんだよ。
ありのままの私を見てよ。

そう思っても、やっぱりLINEは送れないし、
電話はかけられない。
一生このプライドと付き合っていくのかと思うと、今すぐ死んでしまいたくなる。

あぁ、"憧れ"なんて、ちっとも嬉しくない。
あなたの隣にずっといられるなら、
そんなキラキラしたものじゃなくてよかった。

きっとあなたの誕生日は、
一生忘れられない。
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