貴方が出てった数十分後には、出会い系アプリをインストールしていた。
貴方が出てった数十分後には、出会い系アプリをインストールしていた。

突然の「別れよう」。
意味がわからなかった。泣いたりしてみても何も変わらなかった。
「終わるときにはさ、楽しかったよ、ありがとうって笑い合って終わりたいんだよね」
だから泣かないで、と困ったように笑う彼が憎くて堪らなくて、アンタの恋愛の理想なんか押し付けんなってクッションを投げ捨てて怒鳴った。

うずくまって惨めったらしく泣く私の頭をするりと撫でて、彼は出て行った。
頭に残る手のひらの感触が優しくて、余計に虚しくなった。

30分ほど泣いただろうか。
唐突にふつりと冷静になって、携帯を開いた。
適当な出会い系アプリを探してインストール。ついでに美容院の予約も入れる。
彼と過ごす為に空けていた三連休だった。家に1人でいると、寂しさで頭がどうにかなりそうだった。
ギリギリ顔が見えないくらいの写真を選んで、プロフィールの欄にはお酒が好きです、と書いた。
10分ほど放置すると、面白いくらいにメッセージが来ていた。

「お酒好きなんですね!一緒に飲みませんか?」
「どこ住み?」
「エッチしませんか?」

欲望が見え隠れする言葉の中から、明日会えそうな男を3人ピックアップする。
続々と来るメッセージに返信を続けていたら、いつの間にか眠りについていた。

翌朝。
寝起きのボーッとした頭に、恋人を失ったという現実が襲いかかり、キリキリと痛む。
なんとか起き上がって顔を洗い、腫れてしまった瞼にアイシャドウをのせた。
今日は、朝から美容院。そのあとは、吉祥寺の男、東小金井の男、新宿の男。名前、なんだっけ。
色落ちしてしまっていた髪は綺麗に染まり、頭も軽くなった。仕上げに巻いて貰った髪が、風に踊る。

「公園口で待ち合わせねー」
「はーい」

吉祥寺の男にLINEを返し、井の頭線に乗って耳にイヤホンを押し込む。
最近よく聴いている、indigo la endのアルバムを再生して目を閉じた。

吉祥寺の男は、関西のイントネーションが残る人だった。
自転車に乗って日本各地を旅するのが趣味だという。
なるほど、玄関にはマウンテンバイクが置いてあった。
会話もそこそこに、すぐにそういうことが始まった。
キスが上手かった。
正常位、天井を見上げながら奥を突かれる。
彼は。
彼とは、どんな風にエッチしてたっけ。
すごく遠い昔のことを思い出すみたいにぼんやりしてたら、良い所に当たって思わず声が出た。


中央線に乗って、東小金井に向かう。
10分ほどで着いた。東小金井に来たのは初めてだ。小綺麗な駅。
駅前で音楽を聴きながら待っていると、やがてそれっぽい人が来た。イヤホンを外す。
はじめまして、とはにかんだように言うスラリとした長身の男。服のセンスが良かった。
部屋はきちんと片付けられていた。ドライフラワーなんかも飾ってあってお洒落な部屋。
まだ早い時間だったが、ビールを開けて乾杯する。
お互い良い感じにほろ酔いになって、ベッドに移動する。
エッチは優しかった。お酒を飲んだからか、向こうがイクのに時間がかかった。
終わった後、男はタバコを取り出し私をちらと見た。

「吸っていい?」「あ、じゃあ私も」「いいよ。吸うんだね」

私も倣って火をつけた。煙を吐き出す。
愚かだと思う。タバコも、自分の行動も。
愚かだと分かっているのに、辞められない。


また中央線に乗って、新宿へ。
最後に会ったのは、一つ年下の大学生だった。
いかにもウェイサーに入ってそうな雰囲気。
最初はぎこちない敬語を使ってくれていたけど、「タメ口でいいよ」と言うと満面の笑みになった。
ちょっと可愛いと思った。
チェーンの居酒屋に入る。ハイボールで乾杯。
焼き鳥をつまみながら彼はよく喋った。テニスサークルに入っているらしく、肌は日焼けしている。
「カクチャン」とか「ワンチャン」という言葉をよく使っていた。
これはカクチャン美味いよね、ワンチャンもう一杯頼む?

カクチャン君とはその後ホテルに移動した。
「俺エッチ上手いと思うわ」と豪語するカクチャン君。
奥までガンガン突くので、頭がくらくらした。
若いな、と思った。一個しか違わないのに。
咥えてるとき、なんだか自分がそういうお仕事をしている気分になった。
電車を乗り継いで、咥えて、抱かれて。何やってんだろ。

行為が終わってシャワーを浴びた時、めちゃくちゃに吸われたら乳首がヒリヒリした。
痛い。どう吸ったらここまで腫れるんだよ。
シャワーを出て、ふと聞いてみた。
「タバコは吸うの?」
ベッドに寝転がっていたカクチャン君は、急に神妙な顔になって起き上がった。
「いや。タバコは身体に悪いべ。嫌いなんだよね。だから絶対吸わない。」
真面目、と笑いながらバッグの中からタバコを取り出そうとした手を引っ込めた。


終電にはギリギリ間に合った。
マスクをしていると走ったあと呼吸が苦しい。
イヤホンを着ける。
ちょうど、indigo la end の「ほころびごっこ」が流れた。

愛情ごっこで手を打とう、そのうち本物になるかもしれない
最初は大体真似事よ ずっとそうなのかもしれないけど

そっか、そうだよね。
「すげータイプ」「可愛い」「会えて良かった」
マウンテンバイクの人も、ドライフラワーの人も、カクチャン君も。私も。
いつから言葉を安売りしてしまうようになったっけ。
好きとか、そんなことを軽々しく言えてしまう、大人に。

三連休の最後の日の夕方、彼が私の家に荷物を取りに来た。
持っていくものを袋に詰めるアイツを、私はただボーッと眺めていた。
「この後、予定あるんだっけ」
ふと聞かれた言葉に、ごくりと喉が鳴る。
「うん。飲みに」
「へー、友達?」
「いや、アプリで知り合った人」
ふっと彼の手が止まった。私を見る。
悲しそうな、哀れむような、表情。
「お前、変わったな」

半分は寂しさを埋めるため、もう半分は彼への当てつけのような私の行動は、他人から見たら哀れで馬鹿げているだろう。
私だって分かってる。
でも、哀れで馬鹿げたことに縋るしかないときだって、あるのだ。

「幸せになれよ」
トランクに荷物を運び終えた彼が、最後に言い残して車のドアを閉めた。
お腹の下あたりに鈍い痛みが広がった。

私は今日も、イヤホンを嵌めて、どこかの駅に向かっている。


おい、見てるか。
大好きだったよ、ばーか。
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