「好きだから一緒にいたい」から「一緒にいるからたぶん好き」に変わっていく
大学生になると同時に、家を出て学生寮に入った。

すぐに恋人ができた。
2つ上の先輩で、寮長だった人。

好奇心の塊のような18歳の私には、たった2歳しか変わらないその人が、なんだか余裕のある大人に見えてしまって「付き合ってみようよ」なんて、今思えば軽すぎる台詞に流され、OKしてしまった。

ばかみたいに楽しかった。
管理人のいない寮だったから、ほとんどの時間を恋人の部屋で過ごした。

恋人の部屋が好きだった。
5.5帖の日当たりの悪い部屋。
ガチャガチャで集めた大量の動物フィギュア。
映画のポスター、勉強机、シングルベッド。

あの部屋で、数え切れないほどの映画を見て、くだらない話をしては笑って、しょうもないことで喧嘩をして、その分仲直りもして、そしてほとんど毎日、一緒にごはんを食べて、シングルベッドで2人で寝た。

気づいた時には、2人の部屋になっていた。
枕と歯ブラシが1つずつ増えた。食器も増えた。
スーパーで買った食材は恋人の部屋の小さな冷蔵庫に入れた。コンビニのプリンは決まって2つ買った。

どこにも行かなくて良かった。
遠くに旅行に出かけるよりも、他愛もない話をしながら近くを散歩することの方が貴重で大切なことに思えた。
美味しいものを外に食べに行くよりも、作った料理を2人でつついて美味しいねと言い合ったり、失敗しちゃったと笑ったりしながら食べる方が何倍も楽しいと思った。


春、付き合って2年弱で、恋人は大学を卒業し、寮を出た。
私がいつでも来れるようにと、寮から遠くないアパートへ引越した。寮よりも広くて、ベランダもある。

2人でホームセンターに行って、足りない家具を揃えた。
こんな部屋がいい、あんな部屋がいいと言いながら、揉めることもなく、スムーズに新生活の準備が進んだ。
素敵な部屋ができあがっていった。


新型コロナウイルスの感染拡大が、いよいよ騒がれだしたのも、その頃だった。

嫌な予感はしてた。医療関係の仕事についた恋人は毎日仕事に出かける一方、私は毎日オンライン授業で外に出る機会がめっきり減った。

少しずつ、でも確実に、何かが崩れ始めていた。
キスもセックスも雑になっていくのが痛いほどわかった。
好きだから一緒にいたい、から、一緒にいるからたぶん好き、に変わっていくのを感じた。
些細な喧嘩が、長引くようになった。
仲直りの回数が減った。夜中にこっそり泣くようになった。

もう好きじゃないのかもしれない、と考えてしまう自分が嫌で仕方なかった。
恋人のために料理をすることが億劫になった。
何もない幸せな日々を、退屈と思うようになってしまった。


夏、職場に好きな人ができたらしい。


紙袋を捨てられない人間でよかったと思った。恋人の家を出る時、荷物を手早くまとめるのに役立った。
こうなることがわかっていたかのように、テキパキと出ていく準備をした。

洋服をまとめる。教科書をまとめる。
枕を詰め込む。キーケースから合鍵を取る。
意外とすぐに片付く。

それでも夜中の0時に2年間の濃すぎる思い出を置いていくことは出来なくて、朝まで一緒に寝た。

暗闇の中で、久しぶりに落ち着いて話をしたのを今でも覚えている。
この2年間はまあまあ幸せだったと言うので、よかったと私がいう。
職場の好きな人は年上だというので、君ならいけるよと応援する。
ずっと重かったというので、ごめんねと言う。
5年後に会っていたら何か違ったかもしれないと言っていたけど、これだけは意味がわからなかったな。

この夜が明けなければいいと思ったけど、泣いてたら普通に寝てて、普通に朝が来た。

8月、朝の6時に部屋着にビーサン履いて、部屋を出た。

意外と呆気ないんだなぁなんて考えながら、
ああ、ちゃんと好きだったんやなと思いながら、
気づいたら車の中で号泣していた。

あの朝をこの先私は絶対に忘れられない。
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