どうでもいい男と寝てきたことをこんなに後悔したことはなかった。
彼がわたしを初めて抱いた時のことは、正直お酒のせいであんまり覚えていない。


その時のわたしは、お酒を飲んで流されるままにどんな男の人とでもセックスできるどうしようもない女だったし
男の人だってその場限りの女とのセックスなんて挿れて、揺すって、出すだけだと思っていた。

その日、朧気ながらに覚えているのは蕩けそうな色をした彼の目。

それから、

先端をきゅっと摘まれて、焦らすように腰を撫でられたこと。感触を確かめるみたいなキス。わたしの好きな香水の香り。

その場限りの関係ばかりだったわたしには、彼のセックスの全てが狂おしいくらい優しく見えた。


「昨日のこと、っていうより俺のこと覚えてる?」
「...まさと、くん。」

下半身に残る重怠さで目が覚めて、その時に聞かれた質問と
正解、と言わんばかりの嬉しそうな顔。
セックスした人の下の名前を覚えたのはこれが初めてだった。

「慣れてないんだね。」

わたしが誰でもいいタイプの人間だということを分かっているくせに
こんなことを言う人も初めてだった。

「イルミネーションを見に行こう。」
「誕生日は空けておいてね。」

彼女でもないのに、今までいたどの恋人よりも恋人みたいなことをする彼が不思議だったし、

「可愛い。」

耳、首筋、お臍の横、内腿
色んな所にキスをして、わたしの反応を楽しむくせに、自分は最後までしなくても大丈夫、みたいな人は今までにいなかった。

全部が初めてで苦しいくらいに嬉しくて、
でも、だから、この気持ちを恋愛と言ってしまうにはあまりに勿体なくて脆かった。

並んで歩く時車道側を歩かないで。
酔っ払った時、好きだなんて言わないで。
無意味なLINEを楽しみにさせないで。
会えない時に、俺も寂しいよなんて言わないで。

全部素直に言えないくせに、

「他の女の子とも遊ぶようなあなたのこと、絶対好きにならないよ。」

可愛くない言葉はいつも口をついて零れた。


街を歩くと、ぱっと目を引くくらいの高身長。
俳優のように整った綺麗な顔の彼には、わたしの他にも何人も遊べる女の子がいることを知っているし、
他の人とも遊んでいた女の子を彼女にしたくないと言う彼は、わたしなんかを好きならないことも十分にわかっている。

だから、
彼以外に抱かれることに嫌悪感を覚えるほどになったこの気持ちが
今までセックスをした男の連絡先を全部消させるまで大きくなったことに、どうしても気づきたくなかった。

今までどうでもいい男と寝てきたことをこんなに後悔したことはなかった。

言われた通りに仕事を休んだわたしの誕生日。
地上より夜空の方が近いんじゃないかと錯覚するようなお店を予約してくれて、デザートのケーキにはチョコレートのプレートとロウソクがついていて、幸せで幸せで堪らなかった。
貰ったプレゼントは、彼との何気ない会話の中で欲しいと言っていたキーケース。
今まで持ったことの無い、わたしには手が届かない高価なブランドの、可愛く手のひらに収まる色とサイズ。

ベッドに入る前に、持っていた鍵を2人でそのキーケースにつける。
嬉しくて溢れた涙がバレないように「眠い」と言って、電気を消した。

好きだと言いたい気持ちを抑えて
手を繋ぎたい気持ちを抑えて

控えめに彼の袖口をつかんで「ありがとう」とだけ呟いた。

「どういたしまして?」

袖口にあったはずのわたしの手は、いとも簡単にするりと彼の指先と絡って、

あ、今たぶん、口の端だけ上げて意地悪に笑ってる。

暗闇でも彼がどういう顔をしているかわかるほど、
今だけは近くにいる自分が嬉しくて、

でも彼女には絶対なれない自分が
やっぱり、すこし痛かった。

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