私が好きだった男。私と寝たかっただけの男。 私の初めての男。
中学生の時にかっこいいなと思っていた男の子は、大学になったらもう一人の男になっていた。
中学以来疎遠になっていた彼とは、初めての塾のバイト先で久しぶりに再会した。10㎝ほど伸びた身長と、少し低くなった声。私が再び彼を意識しだすのに、そう時間はかからなかった。
高校時代は勉強ばっかりで、浮いた話とか全然なかったんだと笑うその屈託のない笑顔だけで、とてもモテていたことはすぐにわかった。
それでも、今は彼女いないんだという言葉を信じることしかできなかった。
勝算は、あった。
彼が私と話をするときの目線。自分に対する目線だけ違う。女として意識はしてもらえている。そう考えるだけで天にも昇りたい気分になった。たぶん、初恋だったんだと思う。
勇気を出して彼をご飯に誘えたのは、出会ってから3か月が経ってからだった。一緒にごはん行こうよ、という私の軽い(精一杯軽く見せかけた)誘いに、彼は少しも考えずに、いいよ、いつにする?といつもの笑顔で答えた。
お酒を飲んだ。ほとんど飲んだことがなかったお酒を、まるで慣れているかのように飲んだ。慣れていそうな彼に、子どもだと思われたくなかったから。
どうやら私は回るのが早いほうなようで、すぐに顔が火照ってきて、ふわふわしてきた。彼も耳が少し赤くなっていた。ペース早いねって笑う彼は、同級生のはずなのにやっぱりどこか大人びて見えた。
時間がだんだん遅くなって、周りのお客さんが少しずついなくなる。
私と彼の間には、男女の間特有の沈黙が流れていて、もう彼の顔すらまともに見れなかった。
ふと、彼の手が私の手に触れた。熱を持っていて、少しごつごつした男の手だった。そして、指を絡めた。私は固まって身動き一つとれなかった。
「すきだよ」
夢みたいな、嘘みたいな、言葉が彼の口からこぼれた。
私から言うはずだった言葉。耳を疑った。
心臓がこれ以上ないくらいはねて、息ができないほどだった。告白、されたんだ。
もちろん頷くことしかできなかった。嬉しかった。まだそんなに生きてない人生で、一番うれしかったと思う。
後にはじめて彼と寝たときも、ここまで心臓は跳ねなかった。こんな時ですら彼の目は私の胸を見ていたけれど、それには気づかないふりをした。
きっと幸せの絶頂はこのときだった。
彼は私にとてもやさしくしてくれたけど、やさしくしてくれただけだった。初めて手をつないだ時も、初めてキスをした時も、彼はとてもすずしい顔をしていた。
何もかも初めてだった私とは違って、やっぱり彼は何もかもに慣れていた。
付き合って2ヵ月くらいたったとき、私たちは初めてセックスをした。
地元のラブホで、彼の手が私の一番柔らかいところにやさしくやさしく触れる。指先で触れられたところが熱く火照る。普段は言ってくれない、かわいいをたくさんこぼしてくれる。それだけで幸せだった。
私はもちろん初めてだけど、彼もはじめてだったようで、手探り手探りで少しずつ進めていった。少しも気持ちよくなかったし、痛いばっかりだったけど、彼の気持ちよさそうな顔と、ひとつになっている実感だけで十分すぎるほどに幸せだった。
彼は私に好きだと何度も言った。付き合ってから二回目の「好き」だった。
彼が冷たくなり始めたのはこの頃からだった。
もともと少なかったラインが、さらに少なくなった。勉強が忙しくなるからなんて、ただの言い訳に過ぎない。
1週間に1日会えていたのが、1か月に1日も会えなくなった。それでも、会ったらセックスをすることだけは欠かさなかった。
その時だけが、彼女だという自信をもっていられる時間だった。
その日、電話が来ることは心のどこかで予感していた。電話の内容も。普段電話なんてしたがることはない彼だったから、嫌な予感は的中した。
「別れよう」
そういった彼の口調は確固としていて、私の付け入る隙なんてひとつもなかった。
「何を言っても、無駄なんだよね」
一言も話さず切られた電話の後には、重たい沈黙だけが残っていた。
風のうわさによると、彼には新しい彼女が出来て、今はその彼女と幸せにしているらしい。
私が好きだった男。
私に好きだといった男。
私と寝たかっただけの男。
私の初めての男。
中学以来疎遠になっていた彼とは、初めての塾のバイト先で久しぶりに再会した。10㎝ほど伸びた身長と、少し低くなった声。私が再び彼を意識しだすのに、そう時間はかからなかった。
高校時代は勉強ばっかりで、浮いた話とか全然なかったんだと笑うその屈託のない笑顔だけで、とてもモテていたことはすぐにわかった。
それでも、今は彼女いないんだという言葉を信じることしかできなかった。
勝算は、あった。
彼が私と話をするときの目線。自分に対する目線だけ違う。女として意識はしてもらえている。そう考えるだけで天にも昇りたい気分になった。たぶん、初恋だったんだと思う。
勇気を出して彼をご飯に誘えたのは、出会ってから3か月が経ってからだった。一緒にごはん行こうよ、という私の軽い(精一杯軽く見せかけた)誘いに、彼は少しも考えずに、いいよ、いつにする?といつもの笑顔で答えた。
お酒を飲んだ。ほとんど飲んだことがなかったお酒を、まるで慣れているかのように飲んだ。慣れていそうな彼に、子どもだと思われたくなかったから。
どうやら私は回るのが早いほうなようで、すぐに顔が火照ってきて、ふわふわしてきた。彼も耳が少し赤くなっていた。ペース早いねって笑う彼は、同級生のはずなのにやっぱりどこか大人びて見えた。
時間がだんだん遅くなって、周りのお客さんが少しずついなくなる。
私と彼の間には、男女の間特有の沈黙が流れていて、もう彼の顔すらまともに見れなかった。
ふと、彼の手が私の手に触れた。熱を持っていて、少しごつごつした男の手だった。そして、指を絡めた。私は固まって身動き一つとれなかった。
「すきだよ」
夢みたいな、嘘みたいな、言葉が彼の口からこぼれた。
私から言うはずだった言葉。耳を疑った。
心臓がこれ以上ないくらいはねて、息ができないほどだった。告白、されたんだ。
もちろん頷くことしかできなかった。嬉しかった。まだそんなに生きてない人生で、一番うれしかったと思う。
後にはじめて彼と寝たときも、ここまで心臓は跳ねなかった。こんな時ですら彼の目は私の胸を見ていたけれど、それには気づかないふりをした。
きっと幸せの絶頂はこのときだった。
彼は私にとてもやさしくしてくれたけど、やさしくしてくれただけだった。初めて手をつないだ時も、初めてキスをした時も、彼はとてもすずしい顔をしていた。
何もかも初めてだった私とは違って、やっぱり彼は何もかもに慣れていた。
付き合って2ヵ月くらいたったとき、私たちは初めてセックスをした。
地元のラブホで、彼の手が私の一番柔らかいところにやさしくやさしく触れる。指先で触れられたところが熱く火照る。普段は言ってくれない、かわいいをたくさんこぼしてくれる。それだけで幸せだった。
私はもちろん初めてだけど、彼もはじめてだったようで、手探り手探りで少しずつ進めていった。少しも気持ちよくなかったし、痛いばっかりだったけど、彼の気持ちよさそうな顔と、ひとつになっている実感だけで十分すぎるほどに幸せだった。
彼は私に好きだと何度も言った。付き合ってから二回目の「好き」だった。
彼が冷たくなり始めたのはこの頃からだった。
もともと少なかったラインが、さらに少なくなった。勉強が忙しくなるからなんて、ただの言い訳に過ぎない。
1週間に1日会えていたのが、1か月に1日も会えなくなった。それでも、会ったらセックスをすることだけは欠かさなかった。
その時だけが、彼女だという自信をもっていられる時間だった。
その日、電話が来ることは心のどこかで予感していた。電話の内容も。普段電話なんてしたがることはない彼だったから、嫌な予感は的中した。
「別れよう」
そういった彼の口調は確固としていて、私の付け入る隙なんてひとつもなかった。
「何を言っても、無駄なんだよね」
一言も話さず切られた電話の後には、重たい沈黙だけが残っていた。
風のうわさによると、彼には新しい彼女が出来て、今はその彼女と幸せにしているらしい。
私が好きだった男。
私に好きだといった男。
私と寝たかっただけの男。
私の初めての男。