「好きだよ、でも好きでいるのやめたい」
18歳の冬、私は彼に憧れていた。

二つ年上の彼の、名前を呼んでみたい。
彼に私の名前を呼んでほしい、と。夢を見るように考えていた。


そんな矢先に、彼から突然連絡が来た。

その頃の私はとても弱っていた。だから彼の気持ちが痛々しいほどわかった。
寂しいのだろう、きっと誰かにそばにいて欲しいのだろう。

彼は最初から、私の好意に気付いていた。だから私に連絡したのだ。
彼が私の好意に気づき、利用しようとしていることに、私は気付いていた。
それでも良いと思えるほどには私は彼が好きだった。


虚しさを埋めるように二人で過ごした。

遅い時間に彼の家に行って、温かくて静かな部屋でたくさん話をした。
私が好きだと言えば、俺も好きだと返してくれた。
私の名前を呼ぶ彼の声が、たまらなく愛しかった。
悲しかったことも彼に話せば大丈夫になった。
煙草を吸う彼の横顔が好きだった。

深夜になってから、同じ布団で眠った。抱き合うように、寂しさを紛らわすように。
それから、何度もキスをして、手を繋いだ。
彼のするキスが好きだった。柔らかく優しくて、気持ちよかった。


でも私達は体を重ねなかった。
しそうになったことは何度もあるが、私が拒んだ。

「好きな人のセフレになったら、どんなに辛いか分からなくて怖い」

涙をこぼしながらそう言った時、彼は私を抱き寄せて苦しそうな声で
「ごめんね」
と告げた。

この時の私は体を許さなければ、もしかしたら愛してもらえる日が来ることを期待していたのかもしれない。


春が終わった頃、彼とは会わなくなった。
突然ではなかった。

私の名前を呼ばなくなったことに気がついていた。
私に弱音を吐くことが減っていった。
どれだけ「好き」と伝えても、「ありがとう」としか返されなくなった。
彼からキスをされなくなった。

きっともう私がいなくても笑っていられるのだと、そう気付いて息が苦しくなった。

彼が大丈夫になったことを、喜ぶことができなかった。
私はまだ、彼のそばにいたかった。涙が止まらなかった。

会わなかった半年の間も、彼のことを考え続けた。
彼に愛されることは諦めかけていたけれど、ただもう一度、彼に触れたかった。
それに二人ですごした夜が、無かったことになるのではないか、
私達はセフレですらなかったから、いつしかあの時間が本当に夢になってしまうのではないかと恐怖で押し潰されそうな日々を送っていた。


二度目の冬が来て彼から連絡があった。

彼の家ではなく、居酒屋で会った。煙草の煙を吐き出す横顔は、やっぱり綺麗だった。
この時間がちゃんと在ったことを証明したくて、消えてしまうのが怖くて、何枚も写真を撮った。

「俺もう終電逃した」
と表情を変えないまま彼が言った。

近くのホテルまで歩いて、その間にもたくさん話した。
目に焼き付けておこうと、彼の笑う顔を見ては息が苦しくなった。


二人でベッドに横になり、あの時のように抱き合った。

好きだと伝えても彼はやっぱり「ありがとう」としか言わなかったけれど、前と同じように苦しそうな顔で私を抱き寄せた。

彼は私のことを好きにならない、とその時やっと、本質的に理解した。
私が寄せる好意は彼にとって重荷でしかない。いくら伝えたところで私たちの関係が進展することは絶対にないのだと。流れる無言が痛かった。
もうやめたかった。何も始まらないのなら、いっそのこと早くやめてしまいたかった。


「好きだよ、でも好きでいるのやめたい」

「だから最後に抱いてくれないかな」


どうせもう、彼から愛されることがないのなら、体を許してもいいじゃないか。もう彼を拒む理由はないんだから。それにきっと、彼に会うのはこれで最後なのだろうとなんとなくそう感じていたから。

何もない関係で終わりたくなかった。二人が近かったことを覚えていて欲しかった。


彼が私にキスをした。前と変わらず優しいキスだった。
彼の柔らかい唇と体温が懐かしく愛おしかった。

好意が無いことをわかっていても、その瞬間、彼の心の中には私しかいないのだろうと確信した。
私はとても幸せだった。
全部、覚えていようと思った。


彼が私の下着を脱がせ、体に触れた。
彼の華奢な指が、触れたところが熱を帯びるようだった。

彼が私の中に入る、その直前

「ごめん」

今まで何度も聞いたあの苦しそうな声。
急に理性を取り戻したように、私に謝り続ける彼。


私の気持ちに応えられないのに、その好意だけを利用するのが心苦しくなった。
傷付けるのが怖くなった。

そう思うくらいには私のことが大切になってしまった。

傷ついた顔を見て、こっちまで傷ついてしまうほどに、もう他人ではなくなってしまったのだ、と。


彼の言う"大切"とは、恋愛対象ではないことにちゃんと気がついていた。

辛かった時にそばにいてくれた友達。

そういう”大切”だった。それ以上でも、それ以下でもなかった。


「私ってそんなに魅力ないかぁ」
「そういうことじゃないじゃん!」

わかっている。
そういうことじゃないことも、今彼と寝ても二人とも幸せにはならないことも。

それでも、泡沫の幸せでも、私はそれを一生忘れずにいるのに。

そう言えれば良かったのだけど、彼の泣きそうな顔を見たら何も言えなかった。


もう寝たかと思って指先に触れると、私の手を包むように指を絡ませてくれた。

最後まで"何もないままの二人"だったけれど、彼の体温は相変わらず温かくて、明け方になってから彼の華奢な腕の中でまた、少しだけ泣いた。


きっとそれも彼は気付いていたのだろう。


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