「まだ好きだよ」をビールで流し込んだ。
「好きだよ」私を見下ろしながら彼が言う。
最近よく飲むようになった、年下の男の子。友達の友達。お互い1人暮らしで、家でも飲むようになって、やっぱりそういう関係になってしまった。もちろん友達には秘密。
お互いそこまで酔っていたわけじゃない。
いつも通りベッドに入ったところで目が合った。何も言わずに近づいて、一度だけキスして初めて彼の腕の中で眠った。
きっともうこの時には好きだったと思う。
彼は本当に居心地が良かった。
「なにされるのが好き?どうされたい?」
噛まれるのが好きだった。
すぐ消えてしまうキスマークより、少しずつ色を変えながら消えていく歯形と鈍い痛みが愛おしかった。消える前に上書きされ続けて、永遠に消えない二の腕と胸のアザ。
もうバレバレなくらい濡れるようになっていた。それでも拒否されるのが怖くて、自分からはキスできないズルい女だった。
キスからはじまった曖昧な関係も、もう何度目だろう。毎日のように会っていたけど、手を繋いだことすらなかった。触れるのはベッドの中でだけ。
たった一度だけした相合傘がくすぐったかった。
「嫌いだよ」可愛くない返事をした。
嬉しかった。好きだった。でも今じゃない。
セックスに煽られた吹けば飛ぶような言葉を信じられるくらい純粋だったあの頃はもう、何年も前の話だ。友達で止まれていたら「好き」と返せていたと思う。
気持ちを乗せてしまった私の負けだった。
ああ、本当にどこまでも可愛くない女。
「しばらく会うのやめようか」
彼に背を向けて下着をつけながら聞いた。短期間で盛り上がりすぎた私達には、落ち着く時間が必要だった。彼だって冷静になれば勢いだったことに気づくはずだ。
時間が合わせやすくて、お酒が飲めて、
ヤれる、お互いに都合のいい相手。
「そうだね、そうしようか」彼が言った。
終わってしまった。
言うんじゃなかった。
強がらなければよかった。
もうずっと余裕なんてなかったのに、
どうして素直になれなかったんだろう。
帰り際、必ずキスしてから開けていたドアをその日はすぐに開けて出た。彼が寂しい言い方だから嫌いだと言った「じゃあね」をわざとつかった。やっぱり可愛くない。
考えなくても勝手に浮かんでくる彼との思い出に、泣きそうになりながら帰った。
最後まで友達には言えなかった2人の関係。
付き合ったら言おうね、なんて彼と話したこともあった。いつも近所の居酒屋かお互いの家だったから、テーマパークや旅行にも出かけたいねって話していた。
お互いどこから本気だったろう。
「あの時の気持ちに嘘はなかったよ」
久しぶりに会った彼の言葉はもう過去のものになっていた。
「ありがとうね」って笑いながら、
「まだ好きだよ」をビールで流し込んだ。