何回も最後?と聞く自分がとてつもなく惨めだった。
⚠この純猥談は浮気表現を含みます。
ガラスのような女の子だと思った。
抱きしめたら一瞬で壊れそうだったから。


「金髪で面接来たよ」
そんなおば様方の噂話と
「めちゃくちゃ綺麗です!お姉様感」
とはしゃぐ年下の子たち。

就活も終わって暇な大学4年の10月。
そんな時期に現れた同い年の新しいバイトは色々ぶっ飛んでるというイメージのまま、シフトが被らずしばらく経った。

雨がすごい日だったと思う。
早めにバイトの控え室にいた時、
「おはようございます」
と聞き覚えのない声がした。
顔を向けると彼女が立っていた。

金髪だったらしい髪は黒で、宝塚の男役のような凛としたショートヘアー、濃いめのメイク、身長は高め。

何よりモデルのような細さは洗練されていて、顔はタイプだけど纏まり過ぎてて近寄り難いなというのが最初の印象だった。

自分は彼女の教育担当を任されることになった。

覚えもよくすんなり諸々こなしていく彼女は、よく笑うし思ったよりノリも良くたまに天然でも嫌味がなかった。趣味もピッタリだった。
お互い数年付き合った恋人がいるということもあり相談し合ったりもした。

ただ手首には傷があったのは気付いていたし、大学は辞めたと話す時や風俗でバイトしてた話をする時は悲しそうに笑うことが多かった。

ある日のバイト終わりの飲み会の後、彼女と他のバイトがうちに遊びに来た。
もう1人のバイトが用事で帰って彼女と二人だけになった時、ぽつりぽつりと彼女が話し出した。

「これ気付いてるよね?」
手首の傷には気付いていたが直接言われると面食らってしまった。
「少なくとも俺はね」
「引いた?」
「まあびっくりはした」

「私はみんなが思ってるほどしっかりもしてないし、まともじゃないよ。まともに生きようと見せようとしてるだけ」


彼女はまた悲しそうに笑った。
目の前の彼女がいつもより細く見えて、同情なのかなんなのか、なにかしてあげたくて。
壊れないようにただ優しく抱きしめるしか出来なかった。

次からバイトの飲み会の後は家に来ることが増えた。
自然と体を重ねることは無かった。

またいつものように家に遊びに来た時、その時は恋人との大喧嘩と親族の死があった後だった。
つらつらと愚痴を聞いてもらってる時に彼女が唐突に泣き出した。

「どうしたの?」
「君がかわいそうで」

恋人では考えられない事だった。
弱さを知ってるから人の痛みがわかるんだ。
そう思った時自分も抑えてたものが溢れ出して泣いてしまった。
2人でひとしきり泣いたあと、セックスをした。

その後複数回会ったのち、自分達はお互いの恋人と別れた。
ケジメだった。
お互い恋人が別れる瞬間になって縋ってきたものの、自分はキッパリと別れられた。彼女はそうはいかなかった。

自分とも元彼とも体を重ねる彼女は板挟みになっていた。
傍から見たら登場人物全員異常だったと思う。
自分自身も今思うとおかしかった。
でも当時はなんで大切にしてくれない相手を大切にするんだろう、自分の方が大切に出来るのにと本気で何回もそう思った。
でも彼女は救ってくれた恩があるからと言うばかりだった。


年が明けてしばらくした時、彼女が倒れた。
心労だった。
じっくりと話して元彼とはもう会わないことになった。

これで真正面から彼女を支えてあげられると思っていた。

旅行に行ったり楽しい日々を過ごした後、就職直前に引越しをして、入社して、と何週間か会わない期間が続いた時連絡が来た。
彼氏が出来そうという連絡だった。
意味がわからなかった。

夜居酒屋で待ち合わせをして、久しぶりとたわいのない話をしたあと本題に入った。

「どういうこと?」

「私ずっと誰かに助けて欲しかった。元彼から君が助けてくれると思ったら余計苦しくなっちゃった。」
「その時に出会って仲良くなった人がいたの。その人は何も知らないし私も嫌な事全部忘れられた。その人といると病気になる前に戻ったみたい。」

あんまりだと思った。苦しかった。
相談してきたのは彼女だったはずだ。
なんで何もしてこなかったやつが。

彼女のことを思って強く良くないと言ったこともあった。でもそれは彼女にとっては元彼と同じだった。
完全な自己満足だったのかと怒りの後に悲しみが心を包んだ。

何もしなかったからこそだ。
そう、気付いた。

ガラスのように脆かったのは自分だった。
弱い自分もずっと支えてくれると勘違いしていた。
いつの間にか本気で好きだった。


その後なんとなくセックスをした。
2人ともこれで終わりだと分かっていた。

何回も最後?と聞く自分が、
新しい人より上手いはず、とおどける自分が
とてつもなく惨めだった。


しばらく経ったあと他のバイト伝いに、その新しい彼と幸せにやっていると聞いた。病気も良くなってきたらしい。

あの好きだったガラスのような女の子はもうどこにもいない。
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